こうした中、日本人としてアメリカに暮らし、時折、日本に仕事で戻ることを繰り返す筆者たちは、毎回、日本に帰国するたびに日本のポリコレ対策は十分ではないとヒヤヒヤすることが多い。

 ポリコレがアメリカにおける一握りの特異な文化であるならそれほど心配はないかもしれない。しかし実際には、世界を牽引するグローバル企業がこぞってポリコレを重視する傾向もあることから、経済活動を妨げないためにも、ポリコレの常識は知っておいたほうがいいのではないか。

年齢や結婚歴などは親しくないかぎり聞かない

 日本とアメリカを往復して感じるのは、日本人はひょっとしたらプライバシーについてとても大らかな国民なのではないか、ということだ。例えば年齢や結婚歴、子どもの有無などは、欧米ではかなり親しいか、相手がその話を出さないかぎりは「あえて」話題には出さないプライベートなことだ。

 しかし、日本ではこれらをいきなり人に質問することが多い。日本の履歴書の定型フォームなどを見ても同じことが言える。日本では履歴書に性別や生年月日を必ず記載することになっているが、アメリカでは性別や生年月日を開示する必要はない。

 重要なのは過去に、その人物がどんなキャリアを築いてきたか、どんなスキルを持っているかであって、年齢や性別などは選考には関係ないからだ。そして、その情報によってバイアスがかかってしまうことは避けるべきと考えるのが一般的なのだ。

 このように、プライバシー情報の扱い方に関する欧米諸国と日本との認識のずれは、日本社会のあらゆるところに潜んでいる。前述の旅館の例なども、日本人の視点で考えれば、旅館の看板は純粋な「おもてなし」であり、それ以上でも以下でもないと思えるだろう。

 しかし、プライベート情報の開示に関する文化が日本とは異なる諸外国では、その「おもてなし」はともすると「個人情報の侵害」でしかない可能性につながることは、頭の隅においておいたほうがいいのではないか。