結果、釜石市は大きな希望を手に入れることになる。
発表は「宝来館」の大広間で待った。そこには「釜石シーウェイブス」のジュニアチームの子どもたちも集まっていたという。
「選ばれるという思いと、こんな小さくて不便なところでは無理なのではという思いが半々でした。でも選ばれて、さあこれからだ、っていう思いが強くなりました。
それに子どもたちがすごく喜んでいたんですよ。あんなに喜ぶ顔を見られてうれしかった。この子たちに夢を持たせることができたことが成果かなって思いますね」
と前出・岩崎さんは涙ぐみながら振り返った。
W杯は通過点
発表を聞いたラグビー少年、少女たちは“釜石のラグビーを強くする”と県外の強豪校に進学したり、“W杯で通訳をしたい”とインターナショナルスクールに進んだり。「自分は釜石のラグビーのために何ができるだろう」と考え、巣立っていったという。
前出の氏家さんも、子どもたちに何かをもたらす大会になることを期待する。
「大会が子どもたちのためになればと思っています。チームを応援するだけでなく、例えば海外から釜石に来た人を、子どもたちがグループで案内したり。そうすれば生きた英語にも触れられるいい機会にもなります。
そして子どもたちには試合も見てほしい。会場に入れなくても、大型のテレビなどでみんなと一緒に見る。そんなふうにできたらいいんじゃないかな」
釜石市では9月25日の「フィジー対ウルグアイ」、10月13日の「ナミビア対カナダ」の2試合が開催される。世界のナショナルチームが、真剣勝負に挑む大一番だ。
「正直、大会までワクワクして仕事になりません」
と笑う前出・志賀さんは、
「11月が来たら終わっちゃうロスも……」と気が早い。
前出の氏家さんは、
「もし今、現役選手だったら私も試合に出たかったですね」
と笑うが、ボールを持つとアスリートの顔に変わった。
前出・岩崎さんは、
「世界中の人に楽しんでもらえる空間づくりをしたい。日本の会場の中でいちばんここがよかった、と言われる大会にしたいですね」
だが、その後、先々のことにも思いを巡らせる。
「私たちが考えていることは、大会が終わった後のことです。W杯を目指すだけで終わるのではなく挑戦は続きます。この先、『ラグビーの町』として何をするか考えていかなければいけません。W杯は通過点だと思っています」(前出・岩崎さん)
ノーサイドの笛が鳴った直後から、新たな釜石の歴史がまた動き始める。その真ん中で主役を張るのは、ラグビーW杯で世界を肌で感じた釜石の子どもたちだ。