瀬尾夏美さんは、2011年の東日本大震災直後にボランティアとして被災地に入り、その後3年間、岩手県陸前高田市で暮らしながら、地元の人たちの話を聞いてきた。本書は当時からツイッターで綴(つづ)ってきた文章と、いまの視点で書かれたエッセイ、そして2つの絵物語で構成されている。
「書き留めること」が
自分の役割だった
「東日本大震災が起こったときは、東京藝術大学の学生でした。被災地で何が起きているのか自分で見に行かないと、今後アーティストとして生きていけないという気持ちがありました。当時、同じ大学に通う友人で、映像作家になった小森はるかとレンタカーを借りて、茨城県北茨城市、宮城県石巻市などでボランティアをしました。
地元の方で被害の大きかった場所を案内してくださる方が多くいました。自分の体験を語りながら、“でもあの人のほうが大変だよ”と言うんです。生き残ってしまったことに罪悪感のようなものを抱いている様子が本当に伝わりました」
陸前高田に住んだのは、「この町にさみしさと美しさがあったから」だと瀬尾さんは語る。
「美しいと言っていいのか、ためらいはあります。でも、陸前高田は地形が素晴らしくて、町がなくなったあとも確かに美しかった。
その光景を絵で描きたいと思ったんです。最初は岩手県大船渡市の産直でアルバイトし、その後、アーカイブセンターのスタッフとなって、震災当時の状況を記録しようと地元の方々にインタビューをしました。
ただ、震災発生時の生々しい話ばかりを集めてネットで公開するという方針に違和感を持ちました。
いま聞くべきなのは、どうやって死者を弔っているのか、あるいは失ったものと、どう折り合いをつけるかということだと思ったんです。それで違う書き留め方を自分の役割としようと考え、意識的にツイッターで文章を書くようになりました」
本書には地元のおじいさん、おばあさんが何げなく語る言葉や動作が書き留められていて、胸を打つ。
「あるおじちゃんは体験を日本語で書くのがつらいので、勉強して英語で綴っていました。友人の小森が撮った映画『息の跡』(2017年)の主人公でもある種苗店の佐藤貞一さんです。彼はいまも書き続けていて、ノートが辞書みたいに分厚くなっています」