イメージは缶入りの
サクマドロップス
本書の収録作品は、基本的に新井さんが好きなものを選んだそうだ。あらためて1冊を振り返ってみると、ご自身の好みが如実に反映されていることに気づいたという。そのひとつが、ぬいぐるみだ。
「うちには4000を超えるぬい(ぬいぐるみ)がいて、特にわにが多いんです。うちのぬいは生きていることになっていて、しゃべったり自己主張をしたりするんですね。わには最初、『101匹わにちゃん大行進』をやりたいと言っていたのですが、いつの間にか101匹を突破してしまいました(笑)」
新井さんは本書のあとがきで、各作品の感想や読みどころを書いている。美しい情景を描いた皆川博子の『断章』へ、新井さんは次のような文章を寄せた。
《皆川博子さん。かなり先輩作家です。(中略)なのに、未だにとても精力的にお仕事をしていらっしゃいます。(中略)将来の私も、かくありたい》
「皆川さんが2012年に『開かせていただき光栄です』を出されたころに、1度、お目にかかったことがあるんです。私より30歳も年上なのに、今でも連載をなさっていらっしゃいますし、本当に素晴らしいです。
私は17歳でデビューしたのでキャリアだけは長いのですが、年齢で区切ると小説の世界では決して年上のほうではないんですよね」
新井さんは両祖父と両親が講談社に勤務する環境で育ち、幼いころから多くの本に接していたという。
「幼稚園のころから作家になりたいと思っていたんです。でも、成長するにつれて、作家というのはなろうと思ってなれる仕事ではないことがわかりました。
小中学生のころに、いちばんなりたかったのは、本の帯を書く人。帯を作るのは基本的に編集の仕事なのですが、子どもだから事情がわからなくて。とにかく、小さいときから本を読むのが好きだったので、帯を書く人になれば、1日中、本を読んでいられると思ったんです」
本書には、新井さんの本に対する愛情と情熱が凝縮されている。
「このアンソロジーのイメージは、缶入りのサクマドロップス。袋詰めのドロップだと好きな味を選ぶことができるけれど、缶入りだとそうはいかないですよね。
オレンジが欲しかったのに出てきたのは苦手だと思っていたハッカで、でも食べてみたらおいしい。本書で初めて読む作品をそんなふうに思ってもらえたらうれしいです。
それから、私は紙の本に触る文化を大切に思っているので、本屋さんでこの本を買っていただけたらとても幸せです」
ライターは見た! 著者の素顔
3~4年前からスポーツクラブに通いはじめ、現在は月に20日ほどマシンを使ったウォーキングに励んでいるという新井さん。
「はじめは3キロ歩くだけで汗をかいていましたが、今は坂道モードにして1時間で6キロ歩き400キロカロリーを消費しています。長続きの秘訣は、歩きながら本が読めるから。歩き終わった後にストレッチをしたりシャワーを浴びているときの充実感がたまりません(笑)」
●あらい・もとこ●1960年、東京都生まれ。立教大学文学部卒。1977年、高校在学中に『あたしの中の……』が第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選し、デビュー。1981年『グリーン・レクイエム』で第12回星雲賞、1982年『ネプチューン』で第13回星雲賞、1999年『チグリスとユーフラテス』で第20回日本SF大賞を受賞。『未来へ……』、『ゆっくり十まで』、『星へ行く船』シリーズなど著書多数。
(取材・文/熊谷あづさ)