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「最近、『イッテQ!』と『ポツンと一軒家』の視聴率合戦の模様がニュースでもよく話題になっています。日曜夜8時はテレビの激戦区と聞きますが、テレビの現場で働く放送作家さんたちはこの対決をどう見ていらっしゃいますか?」(50代・主婦)
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『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)と『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)の視聴率合戦は、テレビ業界内でも話題です。しかしながら、『イッテQ!』が追い詰められているというニュースには違和感があります。
たしかに『ポツンと』が視聴率で勝ったことはあります。ですが、平均すると『イッテQ!』の視聴率が大幅に下がったということはありません。視聴率が下がったのは、その他の番組です。
『ポツンと』と『イッテQ!』は接戦を繰り広げているように見えますが、内情はちょっと違います。ネットのニュースで目にする視聴率は「世帯視聴率」と呼ばれるものです。これを年齢や性別ごとに細分化した物差しもあります。それを見ると『ポツンと』は中高年に、『イッテQ!』はそれとは逆のファミリー層や子どもたちに支持されていることがわかります。2つの番組はうまく棲み分けができているのです。
放送作家の立場からすると『ポツンと』の成功で気になることは、視聴率合戦以外にもあります。例えば、ここ半年ほど『ポツンと』のような「なんでそんな場所に?」を探る企画を求められることが増えました。
ひとつヒットが出れば、類似企画を狙うのはテレビ業界の常。最近でいえば、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』がヒットしたときも、似たような企画を求められることがありました。「じゃあ今度は、どこの水を抜こうか」といったものです。
もちろん、別の場所の水を抜くだけでは番組にならないので、『池の水』の面白さの本質を抽出し、新しい企画に仕立てた番組がいくつも生まれました。『ポツンと』を下敷きにしたとおぼしき番組やコーナーもすでにいくつかあります。今後さらに増えていくかもしれません。
同じ奇跡が起きないか
『ポツンと』の成功で気になることはほかにもあります。「『ポツンと』を見習ってさ」と言いだすプロデューサーが現れたことです。
実は、『ポツンと』は、とてもめずらしい経緯で誕生した番組です。以前、日曜夜8時のテレビ朝日系では所ジョージさんと林修さんという今と同じ共演者で『人生で大事なことは○○から学んだ』という番組をやっていました。有名人が、自分の人生訓や人生哲学を語る番組でした。
その番組内の一企画として、ある日突然、『ポツンと』は登場しました。それまでとはまったく異なる内容でした。視聴率が低迷し、このままでは打ち切りとなる、そんな時期のことだったので、次なる番組に向けてのお試しだったのか、それとも終わるなら自分たちの好きなことをやってやろうということだったのか。いずれにしろ、あまりの様変わりにとても驚いたものです。
過去にも低迷する番組が、起死回生を図って、まったく違う企画を試すということはありました。しかし僕が知る限り、それで持ち直したためしはありません。成功したのは『ポツンと』ぐらい。奇跡といってもいいでしょう。それにもかかわらず、厳しい視聴率を前に、ついついこう言いだしてしまうプロデューサーがいます。
「『ポツンと』が生まれたみたいに、全然別のことをやらないと」
奇跡というのは狙って起こせるものではありません。そうとわかっていても、ついつい同じ奇跡が起きないかと血迷ってしまう、それぐらい『ポツンと』の成功は衝撃的だったのです。
話を質問の趣旨に戻すと、『イッテQ!』と『ポツンと』の視聴率合戦は、バラエティー番組が、よい意味で世間の注目を集めるということでは喜ばしいことだと思います。と、まとめたいところですが、同時間帯の『坂上&指原のつぶれない店』に携わっている僕としては、複雑な気分です。“どちらの番組も頑張って!”だけどなにもそこまで欲張らないで、それぞれ1%ぐらい視聴率をくれてもいいんじゃない? というのが正直な今の気持ちです。
<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『ダウンタウンDX』『行列のできる法律相談所』のようなバラエティー純度の高い番組から、『この差って何ですか?』『たけしの家庭の医学』のような情報濃度の高いバラエティー、さらには『ガイアの夜明け』のようにきまじめな番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく携わっています。