いつかハリウッドで仕事を認められたい
こうして自分の過去を振り返ることも、役へのアプローチにつながっている。
「『どうぶつ会議』のときに共演した池谷のぶえさんがおっしゃっていたのですが、“結局は、自分という存在でしか表現できない。
他人になりきるなんてことは無理で、自分がこういう顔で身長だから、それで表現しないといけないんだ”って。結局は栗原類という人間が演じるしかないんだったら、自分自身の経験をベースに、そこから加えたり引いたりすることしかできないんです。だから、自分と向き合うことは避けて通れません」
今回、栗原さんが目指しているのは「初演とは違ったモーリッツを表現したい」ということ。
「再演とはいえ演者が変われば完全に新作。根っこは初演と同じですが、そこから出てくる芽が違うし咲く花が違うから、初演にとらわれたくないと思っています。でも下手に変えようとすると違和感があって、気持ち悪いと感じてしまう」
そういうもがき苦しみはやりがいあってこそだし、稽古を楽しめてはいるのでしょうか?
「正直な話、ないです。役者って苦しみしかないと思います。自分がどういう表現をするのか楽しみな部分はありますが……。あまりに長い期間、答えが見つからない状態が続くと、僕は気持ちが落ち込んでしまいます。
ある意味、役者って報われない職業だと思っています。でも楽しいという部分もあるから、だったら悔いがないように、苦しみながら楽しむのが正解なのかな」
でも観客の心を動かしたり拍手をもらえたら、報われるところもあるのでは?
「そうだと思います。でも、僕は役者をするにあたって誰かの心を動かしたいなんて欲望はまるでないので。この台本、このセリフ、演出家の言葉を聞いたうえで、どういう表現ができるか。毎回技量を試されるような仕事だから、考えるプロセスはすごく苦しいです。
報われたと感じるのは、自分が考えたものを演出家や監督に“よかった”と言われるとき。そう言っていただけて初めて、達成感を感じますね」
独特の感性があってストイックで、ときには役者らしくない発言もあるけれど、仕事に懸命な栗原さんは、「ネガティブすぎるイケメンモデル」と言われた過去の彼とはまるで違う。それは彼の“目標”を聞いても明らかだ。
「僕はいろいろな人と、特に僕自身が昔から知っている監督や脚本家、演出家と仕事がしたいと思っています。コメディーが好きだからもっとやりたいし、いつかは自分の作・演出で舞台や映画を作ってみたい。
最終的な目標は、ハリウッドで仕事をして認められること。アカデミー賞が100周年を迎えるまでには、あの授賞式に賞の候補者として参加したいですね」
『春のめざめ』
ドイツの劇作家、フランク・ヴェデキントが1891年に発表した戯曲を、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督を務める白井晃が演出。2017年に大好評を博した舞台の再演だ。ドイツの中等教育機関、ギムナジウムを舞台に、社会の抑圧の中で葛藤する若者たちの姿を赤裸々に描く。4月13日~29日 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて上演。以後、東広島、兵庫公演あり。
公式HPは(https://www.kaat.jp/d/harumeza2019)
<プロフィール>
くりはら・るい◎1994年12月6日、東京都生まれ。雑誌『MEN'S NON-NO』などでモデルとして活躍。その後、バラエティー番組でブレイクし、2012年に俳優デビューを果たす。主な出演作に映画『新宿スワン2』『ハナレイ・ベイ』『青のハスより』、舞台『GO WEST』『Take Me Out2018』『気づかいルーシー』『どうぶつ会議』などがある。
<取材・文/若林ゆり>