シニア女性を貧困に追い込む構造

 シニア世代のなかでも単身女性貧困率が際立って高いのはなぜだろうか。その理由は男性が働き、女性に家庭内のケア、家事労働を押しつけてきた日本型の生活保障モデルにある。

 その結果、女性は家庭内に囲い込まれ、夫との死別や離別によって貧困化するリスクを常に抱えている。また家事労働を担わされている女性は非正規雇用比率も高く、低賃金労働へと押しやられ、それが低年金へと結びつき、シニア女性貧困問題を生み出してきた。

 こうした構造から、シニア女性の多くは、専業主婦(あるいはパート労働者)として男性に従属的に生きてこざるをえなかった。企業社会から排除されていたために、職業スキルを十分に形成することができておらず、低年金で貧困に苦しんでいる人が多いのもこうした事情による。

 また、そのような状況に耐えざるをえない状況にあったために彼女たちは「我慢強い」傾向があり、それが職場での「労災隠し」や「雇い止め」に対して声をあげられない要因のひとつにもなっている。

 冒頭に紹介したAさんはなんとか労災申請・認定までたどり着き、休業補償を受けることができた。また、労災ユニオンに加盟し、会社との団体交渉を通じて再発防止などを求めている。

 Aさんは「高齢者は非正規の人が多く、安く都合よく雇用されて解雇されやすい。安心できる環境を整えてほしい」と訴える。シニア世代が安心して働ける環境を少しでも整備していくために、職場でのケガや病気の問題に取り組む労災ユニオンのような活動は、きわめて重要だ。

 自分自身、あるいは自分の親などが働き方に問題を抱えている場合、泣き寝入りすることなく支援団体やユニオンに相談してもらいたい。こうした取り組みを広げていくなかで、シニア女性の働き方や老後のあり方を社会に問うていかなければならないだろう。

(文・藤田孝典)


《PROFILE》
藤田孝典 ◎社会福祉士、社会運動家。NPO法人ほっとプラス代表理事、ブラック企業対策プロジェクト共同代表、聖学院大学客員准教授。著書に『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』など