前出・捜査関係者は、警察に相談があったことを認めたうえで、

落ち葉が家の前にたまっているのはアイツのせいに違いないとか、土ぼこりがかかったのもアイツのせいだとか、明確な被害根拠を示さない相談内容だった。なぜそう思うのか聞いてみると、“それはもう間違いないんですから”と言うばかりでかみ合わない。

 ご近所さんに相談することをすすめたが、金属バットで相手を襲うまでのトラブルが起きていたかというと、それはどうなのかなという感じ。警察が仲裁に入るまでのもめごとまでいっていなかったと認識している」

隣同士に住む、残された妻たち

坂道の手前左側が被害者宅で坂下の奥が容疑者宅
坂道の手前左側が被害者宅で坂下の奥が容疑者宅
【写真】坂道に並ぶ両家。事件の発端はこの “坂” のせいなのか!?

 だが、中尾容疑者の中ではおさまらなかった。相手に原因があると思い込んだトラブルの不愉快さは日に日に膨れ上がり、やがて問題解決のために、怒りの感情を爆発させてしまう。

 古くから住む女性は、

「もうショックで何もお話しすることはできません。(事件を起こすような)そんな人ではありませんでしたよ」

 と気の毒そうな表情を見せる。前出の家族ぐるみで付き合いのあった男性は、

「中尾さん(容疑者)はまじめでおとなしい人でした。滋賀県出身で、夫婦も結婚50周年の金婚式で、近所の方とお祝いしていましたよ。人から憎まれるような人ではないんですけどね。普段の様子からすると、彼がこのようなことをしたということは信じられないですね」

 と、がっかり肩を落とす。

 中尾容疑者は、警察の取り調べで辻本さんについて「嫌いだった」と供述しているというが、殺意を抱くまでに至った心理状況は、まだ明らかになっていない。

 82歳の高齢の男が金属バットを振り回し、71歳の隣家の男性を撲殺した。それぞれの家には今も、残された妻が、かたや遺族として、かたや加害者の家族として暮らす。

 辻本さんの妻は、

「葬式が終わったところなので、取材にお答えできる余裕はありません」

 一方、中尾容疑者の妻は、

「何もお答えできません」

 と言うだけだった。

 隣同士を覆う気まずい空気が、「治安がいいということで住み始めました」(近隣主婦)という住民が多いその地域一帯を、重たく包んでいる。