対して、『なつぞら』のなつは、周囲の人の温かい愛情に恵まれているため、おしんのように反骨精神を持ったり「絶対にこう進む」と闘志をたぎらせることはない。そのぶん自分の生きる道を自分で選択しにくいというところは、平成・令和に見える現代女性の現実の一部だなと感じる。
なつは、祖父の泰樹が血のつながらない兄と結婚しろと言いだしても、おしんのように逃げることはない。そんな理不尽に出あったときは対話をしたり、ときには演劇で表現をしたりして解決をする。それがアニメーターという職業にもつながっていくのだろう。
2作に描かれた女性像はまったく違うが、『おしん』には苦境にあたって、あらがう勇気が生存につながるということが、『なつぞら』には人を傷つけずに、それでも自分の進むべき道を選択するには、どういう手段を踏むべきかというリアルが描かれている。
時代が変わっても、このヒロインたちは、さまざまなことを私たちに教えてくれているのではないだろうか。
《寄稿》西森路代さん ◎にしもり みちよ。編集プロダクション、ラジオディレクターを経て、フリーライターに。香港、台湾、韓国、日本のエンターテイメントや、女性の消費活動について主に執筆。著書に『K−POPがアジアを制覇する』(原書房)など