出版した本は「実験」
ルネさんにとっては単なる日常でも、日本人にはユニークな出来事になる。それに気づいたのは、地元・姫路のダイニングバーで働いていた25歳のときだった。
「よく店のお客さんに、僕の体験したエピソードを話していたんです。例えば友達が働く日焼けサロンに遊びに行ったら、そこにいたおじさんに“お兄ちゃんはもう焼かんでもエエやろ!”とツッコまれた話など(笑)。聞いたお客さんは大笑いしたり考えさせられると言ってくれた。もっと広い世界に発信したほうがいいと言われることもあって上京したんです」
タレント事務所にも所属したが、依頼は外国人としての仕事ばかり。
「アフリカ系日本人としての仕事がないことに気づいたんですね。芸人という道も考えたんですが、僕がやりたいのは『お笑い』ではない。そこで、メモとして書きためていたネタを得意の漫画にしてツイッターに投稿するようになりました」
ルネさんは、この世界はほとんどが人々の勝手な思い込みでできていると言う。
「トラブルの原因は思い込みです。アフリカ人は足が速い、視力がすごい。インド人はカレーを食べて、象がいてヒンズー教だとか。中途半端なステレオタイプなんですね。
僕と一緒に成長してきた友人やクラスメートは、アフリカ人に対して偏見がありません。だから、そういう教育さえちゃんとしていれば差別なんか生まれない。最近、小中学校や高校に講演で呼ばれることも多いんです。みんな僕の話に驚きの連続です。アフリカのイメージがどれだけ偏っているかに気づくんですね」
ルネさんは、出版した本は「実験だ」と言い切る。
「マイノリティー(少数派)がマジョリティー(多数派)の中でどう生きていくかという社会実験。なんでこんなことが起こるのか、いろんな例を挙げて表現している。だから、『日本で育った結果』というタイトルなんですよ」
4月からの入管法改正に伴い、労働者をはじめ、日本で暮らす外国人がますます増えるだろうといわれている。
「来るのは“労働力”じゃなくて“人間”ですから。日本の文化や習慣に慣れるまで時間がかかる。寛容さが必要なんじゃないのかな。SF映画のプレデターのようなやつらが来ると思ったら、実際にそうなってしまう。温かく受け入れれば仲よくなれますよ」
(取材・文/小泉カツミ)