江國香織さんの2年ぶりの長編小説『彼女たちの場合は』は、10代の少女ふたりのアメリカ旅行を描いたロードノベル。

 家族とともにニューヨークの郊外に住む14歳の礼那(れいな)の家には、日本の高校を自主退学した17歳のいとこの逸佳(いつか)も暮らしている。10月のある日、礼那と逸佳はふたりきりで“アメリカを見る”旅に出た。

 ボストンを皮切りに長距離バスのグレイハウンドや全米を走る旅客鉄道アムトラックを乗り継ぎ、ときにはヒッチハイクも行いながらふたりの旅は続いていくのだが──。

久しぶりに若い人の
物語を書きたかった

「私自身、アメリカに留学していた23歳のときに、友達とふたりでアメリカ旅行に出かけたことがあったんです。当時はデラウェアという田舎町に住んでいたのですが、もっといろんなアメリカを見たいなって思って。グレイハウンドに乗ってボストンとポーツマスに行ったんです。そのころの私は、精神年齢が幼かったんでしょうね。ずっと赤ちゃんの人形を抱いて旅をしていました(笑)」

 その話をした際、当時、『小説すばる』の編集長を務めていた高橋秀明氏に小説に書くことをすすめられたという。だが、実現できないまま高橋氏は2014年に急逝してしまった。

だから、アメリカ旅行の話を書くなら絶対に『小説すばる』で連載したいと思っていたんです。私自身が年齢を重ねるにつれて主人公の年齢も自然と上がってきたので、久しぶりに若い人の物語を書きたいと思ってもいました。そうした理由から、あのとき彼と約束した旅の話を書くことにしたんです

 14歳の礼那は、子どもの無邪気さの中にも、大人びた部分をあわせ持つ女の子だ。

変な日本語ですけど、私は子どもってすごく大人だなって思うんです。私が書く小説にはわりと多く子どもが出てくるんですけど、それは子どもの大人さ加減とか、大人の子どもさ加減を書くのが好きだから

 恋愛が出てくる小説を書くことが多いのも、恋に落ちるとひとりでいるのが寂しくなるとか、触れたいとか一緒にいたいとか、よくも悪くも子どもの部分が出てくるのが面白いなと思っているからなんです。礼那は、子どもの持つ大人っぽさを体現している子どもだなと思っています」

 常に冷静でさまざまなことを憂ういとこの逸佳は、礼那と比べると一見、自己肯定感が低い女性のようにも思える。

「それはきっと、性格というよりも17歳という年齢による部分が大きいような気がします。17歳と14歳ってたった3つ違いですけど、この年代の3歳の差は大きいですよね。それに、16歳、17歳、18歳くらいって、きっと、すごく屈託が出る年齢なんじゃないかなって思うんです。だからふたりの年齢による差も書いてみたいと思いました