守られなかった「48時間ルール」
15日、道警は単独で莉菜容疑者宅を訪問。詩梨ちゃんの足にヤケドのようなものを発見したが、「アイロンを踏んづけてしまって」と莉菜容疑者が弁明したことから、虐待はなしと判断。同時にそのことを児相にも告げ、児相も道警の判断を追認している。
以降、児相は17日、22日と莉菜容疑者に電話したが、連絡はつかず、6月4日には家庭訪問したが不在のため引き返している。こうして事件が発生してしまった。
昨年、東京都目黒区で5歳の結愛ちゃんが都の品川児童相談所にSOSを何度も発しているのに亡くなってしまった悲しい事件があった。この虐待事件を受けて、全国の児童相談所は通告があったあと、48時間以内に子どもの安全を確認する「48時間ルール」が設けられた。
ところが、札幌市児相の場合、この詩梨ちゃん事件で同ルールが守られたのは、最初の1回目だけ。あとの2回は守られていなかった。
「甘さがあったと考えています。この事件後、調べたところ、ルールが守られていなかったものが、今年に入ってほかに4件ありました。現在はすでに安全確認がとれていますが」(高橋所長)
厳格にできていないのが現状である。
さらに、今年1月にも千葉県野田市で「心愛ちゃん(当時10)虐待死事件」が発覚。県柏児童相談所がいったん保護したにもかかわらず、再び親のもとへ返した不手際が死につながった。
こうしたほかの児童相談所の失態をまったく生かすことがないままに、同じような事件が繰り返し起きてしまっている。対応やあり方を話し合い、教訓として生かす態勢になっていないのか─。
「それは、私の指導力の至らなさだと反省しております」(高橋所長)
昨年度、札幌市での虐待の通告は1497件で、うち虐待は839件あった。6月現在、札幌市児相には124人の正規職員と、78人の非正規職員がいる。うち虐待を専門とする児童福祉司は49人だ。いまは基準より少ないため、今後、徐々に26人が増員されるが、人数や予算が拡大されても、危機意識を持てなければ過ちが繰り返されるおそれがある。
児相は虐待されている子どもたちの最後の砦。
物心両面で態勢を整えることが急務である。
取材/山嵜信明と週刊女性取材班 (やまさき・のぶあき)=1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物虐待などさまざまな分野で執筆している