問答無用の彼の注文
席に着くやいなや、「え〜オススメがあるので僕が頼んでもいいですか?」と言ってすぐベルを鳴らすヤマダ。私はメニューを見る間もなく店員が到着し、驚きのひと言を発する。
「グラスワインのロゼを、2個。以上で!」
って腹減ってるんじゃなかったんかい! つまみもなく注文されたグラスワイン、ちらりとメニューを見ると一杯100円だ。なんというコストパフォーマンス。
すぐにグラスワインが到着する。苦笑しながら乾杯する私に、怒濤(どとう)のセクハラ発言を繰り出していくのだった。
「あ、シオリちゃんは彼氏いないんだ。じゃあ全然ヤッてない感じ?」
しょっぱなから鋭利に切り込んでくるヤマダ。彼氏がいないから誰とでもやるわけではない、と冷静に伝える。
「俺も別に彼女探してるってわけでもないんだけどさ。あんまり強引にいけないほうだし、俺。イヤな子に無理強いとかできないんだよね。
なんかもっと、こういうときはガツンと誘ったほうがいいのかなぁとも思うんだけどさぁ……どうなんだろぉ?」
自分語りなのか、誘っているのかよくわからない話しぶり。イヤなもんはイヤなんだと思うし、一回言ってダメなものは二回言っても三回言っても、しつこいだけでダメなことには変わらないと思うぞ! ヤマダ。
終始「ハァ、そうですか……」とちょっと上の空な返事をしていたら、30分でサイゼリアを出ることになった。グラスワイン二杯、会計は216円。「おごるよ!」などと言ってきたので、おごった気になられるのもイヤなような気がして、100円わたして帰ってきた。
安ければ安いほど、
ナンパ師としてのハクがつく?
のちのち、この話をtwitterで愚痴っていると、恋愛工学アカウントからこんなリプライがきた。
『ナンパ師的には、かけた金が少ないほど、自分のナンパのスキルにハクがつくんですよ。安く見積もられたのでしょうね……』
なるほど、お金をかけずにコンバージョンさせることが、ナンパ師のハクになると。つまりヤマダはやはり、サイゼリア200円の会計でお持ち帰りを狙っていたということだ。
200円分の価値に見積もられたと思うと、なんだかもうやるせなくて、本当に100円を渡してよかったと思った。
やはり若者の街、渋谷……銀座・コリドー街よりも安っぽいギラつきを感じた。ホテル街が近くにあることもあり、やはりコンバージョン目的のナンパも多い。趣味としてナンパを楽しみPDCAサイクル(注1)を回すタイプ。女性としてはあまり相手にしたくないナンパ猛者だった。
(注1)PDCAサイクル(PDCA cycle、plan-do-check-act cycle)は、生産技術における品質管理などの継続的改善手法。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。
最後に“ヤマダ”の外見の特徴をわかりやすくお伝えする。
■顔面→チュートリアル福田系
■服装→ネイビーの細身スーツは悔しいが似合う
■髪型→リーマンらしいかきあげ7:3
■年収→推定500万
■感想→会社のストレスをナンパにぶつけてるような雑さ
渋谷のナンパ男子は、狙うはコンバージョン一択! なオオカミ系男子だった。取って食いされるのはゴメンなので、22時と早めに取材班も撤収したのであった。
三九二汐莉(みくに・しおり)◎フリーライター。『週刊SPA!』(扶桑社)、『mina』(主婦の友社)などで恋愛や婚活、最新の出会い事情について寄稿中。
逆ナンやギャラ飲みなどの現場にも乗り込むサブカル女子。