マンガやゲームを原作とした舞台作品=「2.5次元」の人気が過熱する今。占い界イチの2.5次元&アニヲタである占い師の阿雅佐(あがさ)さんが、注目の2.5次元俳優を独自の視点で分析します! 今回分析するのは、名実ともに2.5次元を代表する俳優、鈴木拡樹さんです。

 

第1回
鈴木拡樹に見る変容の美学

 鈴木拡樹は変容の役者である。素を脱ぎ捨て、役を纏(まと)うことで変幻自在に姿を変えていく。それは演技がうまいとか、掘り下げ方が深いといった次元のものではない。ファンから「憑依(ひょうい)型」「神がかった存在」と言われるのもそれゆえだろう。

 ルックスが美しいのは当然。それに加え、原作のキャラクターを再現することを求められるのが「2.5次元」の役者だ。あるときは「優雅さの中に強かな芯を宿した付喪神(つくもがみ)」だったり、「粗野で口は悪いが根はシャイで熱い男」だったりと、その振り幅は無限大。キャラクターの数だけ役者がいるとも言えるし、その数だけ存在を消すとも言える。

 2.5次元の役者たちが演じるのは、ほとんどの場合、原作ゲームやアニメですでにCV(声優によるキャラクターボイス)がついた役だ。持ち前の整ったルックスにメイクや衣装を付加することにより、そしてもちろん秀逸な演技力により、彼らはキャラクターを見事に纏う。

 しかしその声(響きや声質)まで引き受ける役者はそういない。そこまで求めているファンも多数派でないように思う。見た目や雰囲気、佇(たたず)まいがキャラに寄せてあれば十分、というか十二分! とにかく尊い。素晴らしい。声質は多少違っても、キャラクター独特の言い回しが再現されていれば微塵も問題ない、と。

 鈴木拡樹がひと味違うのはここだ。彼は常に、ルックスのみならず「声」まで完全再現する。『刀剣乱舞』三日月宗近役では声優・鳥海浩輔の雅(みやび)で艶のある声を、『最遊記』玄奘三蔵役では関俊彦の躍動感の中に品格のある声を、ほぼ完全に舞台に乗せた。

 原作ファンがどれほど歓喜したかは言うまでもないだろう。一分のギャップもない、ほぼ完全体のキャラクターが具現化しているのだ。アニメやゲームであんなにも愛(め)でた存在が息をして動いているのだ。佇まいはもちろん、声音までそのままに!

(『弱虫ペダル』はアニメ化より舞台化の方が先だったが、荒北靖友役のどこか尖った抑揚のある声がアニメCV吉野裕行と酷似していたのには、運命的なものを感じてしまう)