「止まった心臓」の意味

デビュー後の仕事部屋。スヌーピーは作品中にも遊び心でたびたび登場
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 デビュー直後はずっと怪奇ホラーものを描いていた。それからギャグマンガに転向するが、魔夜さんの作品には、しばしば悪魔や妖怪といったキャラクターが登場する。

「何十年ぶりかに小学校の同窓会に行ったんですよ。紙でモビールを作るという図工の時間に、みんなは花だなんだってきれいなものを作ったのに、私だけ、ドクロとか、頭にナイフの刺さっている男の人とかを作ったそうです。変わったやつだと思われていたって聞きまして

 かといってダークなものに興味があるわけではないと否定する。

「妖怪って面白いんですよ。コミカルで怖くない。私がいちばん好きな妖怪はぬらりひょんなんですけど、なんにもしないんですよ。忙しい商店に勝手にあがり込んで座り込む。どかそうと思ってもぬらりくらりして邪魔でしょうがないってだけの妖怪なんです。基本的には悪意を感じないんですよ。

 日本は自然災害が多い国ですよね。どんな災害があっても自然には悪意がない。それと同じような感覚なのでしょう。仮に天変地異が神様の仕業だとしても、そこに悪意はなく、たぶん何か計画や考えがあって、やってることだと思うんです。人間には理解できませんけどね。でも、決して残酷な意味でやっているわけではないんです」

 苦境も含め、すべてのことは必然で理由がある─その視線はあくまでクールだ。

 魔夜さんは自身のことを「止まった心臓」とたとえる。病院で心電図をつけた人が亡くなると、それまで描いていた曲線が、ピーッとまっすぐになる、あの状態だ。

「ずっと一緒なんですよ。喜んだり悲しんだりしない。いつも一定なんです。人に対しても腹が立たないですね。自分が完璧な人間ではないのに、ほかの人に完璧を求めたってしょうがないでしょ」

 他人に興味がないだけではなく、作品にも執着しない。20年以上前から断続的に担当をしている白泉社のWEBコミック誌『花ゆめAi』編集長の岩切健太さんがその無頓着ぶりを明かす。

「トークイベントなどで熱心なファンが作品について質問しても“なんだっけ?”といったふうで覚えていない。作るにあたっての苦労はあると思いますが、“すごいのを描いたぞ”とか“めちゃくちゃ苦労したぞ”とか、そういうことに執着せずに、終わったら忘れて次の作品を同じテンションで描くんです」

 実はこの「動じない」スタイルが、魔夜さんの今の再ブレイクにつながっている。