赤堀さんのリアルな
世界観が好きです
「赤堀さんの作品を最初に見たのはスズナリで上演された『葛城事件』だったと思います。それから観客としてずっと見てきて、赤堀さんの作り出すリアルな世界観が好きです。日常を描いていく中で何かちょっと歯車がズレて、それで人間関係が破綻して。その生々しさと、崩壊したときに出てくる本性とか、抑えていた感情が爆発する瞬間を繊細に描いている会話劇で。人の不幸は……じゃないですけど、そういう傷ついて奔走してる人って、滑稽な面白さもあるし、共感できるところもどこかあったりして。日常の延長線上にある非日常が見ていて面白いと思いますね。
でも、そういう舞台に出る側はやっぱり大変で、僕も経験がありますけど、すごくきつくて、うなされたり(笑)。見るのとやるのとでは、こんなに違うものかっていうぐらい。動物園の檻の中に入るような気持ちですから、単純に楽しみだなっていう感じではないです。ハードルが高いぶん、千秋楽を迎えたときにどういう景色が見えるのかなという期待はありますね」
うなされるほど大変な舞台の仕事を続ける理由を尋ねると。
「楽に宝くじ当ててるほうがいいんでしょうけど、そういうタイプでもないし(笑)。僕は舞台俳優ではないので、1年に1本舞台ができればいいなと思っていて。年に何本もできないぶん、1本にかける思いは自分の中ではすごく大きいです。でも、舞台に出ることが好きかと言われると、断言できないところもあって。大変なのも知っているし、緊張感とか、生ものなのでハプニングがつきものだっていうのもわかっています。でも、それでしかわからないものとか、見えないものもたくさんあるのが舞台だと思っているので、やりたいというよりはやらなきゃいけないって思いが強い。
だから、やるからには大変なもののほうが今はいいと思っていて。いつか楽になるかもしれないと思いながら、毎回、修行の気持ちで稽古場に行ってます。今回も、そういう意味では、すごくハードルが高い作品だと思いますし、これを乗り越えたときに、少しは成長してるんじゃないかなという思いです」
市井の人々の機微を丁寧に描く独特の世界観は赤堀ワールドと称され、その舞台は常に注目を集めている。今作は2年ぶりの新作。
「(※取材時は脚本完成前)赤堀さんがどういう世界を作ってくるのか楽しみでもありつつ、でも結局は、見てくださる方たちの喜怒哀楽だったり感情をいい意味でどれだけ傷つけていけるかだと思うんですね。単純に面白かったねだと、あんまり残らない気がして。笑っちゃいけないけど笑っちゃうとか、ブラックユーモアなところもあるかもしれないですし、舞台の上で自分たちが、どれだけ傷つくかっていうことで表現するしかないと思う。記憶に残る舞台にしたいですね」