さらに床蜂さんは言う。
「北の湖さんと白鵬は似てるとこがあるって話したけど、遅刻魔なのも似てる。それに白鵬は悪気はまったくないんだけど、思ったことをぐっと抑えることができなくて、パッと言っちゃって誤解を招いたりするよね。井筒親方なんかは『モンゴルの人にはモンゴルの流儀があるから』って理解を示してくれるけど、世の中みんながそうじゃないからね」
床蜂さん、白鵬に厳しく苦言を呈す。でも、ファンからすると、そういうところもまた魅力だ。完璧なほどの強さを見せながら、ぽろっと零(こぼ)れ落ちるところがある。人は誰も完璧ではないし、たとえ横綱とて完璧な神にはなれない。長く横綱としてやってきて、そういうところを垣間見せてくれるようになって、白鵬はより魅力的な横綱になったと思う。
「うん、そうだね、白鵬は人はいいよね、めちゃくちゃいい人なんだよ」
白鵬の知られざる一面を“暴露”
白鵬はまた、私たちの知らない別の顔を床蜂さんに見せている。
「白鵬はめちゃめちゃやきもち焼きなんです。自分は把瑠都(元大関。現在はエストニアの国会議員)と仲よしだったんですが、あるとき巡業で把瑠都に『章さん、一緒に飯食おう』と言われて一緒に弁当を食ってたら、そこに白鵬が通りかかった。『どこで飯食ってるの?』って聞くから『どこって、ここだよ』って答えてそのまま食べてたの。
そしたら食べ終わるかどうかってぐらいのタイミングで若い衆が来て、『章さん、横綱、頭やるって言ってます』って言うんですよ。大銀杏を結うにはいつもよりぜんぜん早いし、横綱は昼寝もしてない。でも、頭やって、また把瑠都んとこ戻って話してたら、把瑠都が『章さん、横綱がずっとこっち見てます』って下向いちゃって」
これには私も笑ってしまった。失礼ながら白鵬、なんてかわいい。あんな大横綱なのにやきもち焼きなんて!
しかし床蜂さんを大好きなのは白鵬だけではない。あの遠藤も床蜂さんに長年「一回やってくださいよぉ」と切望してきたひとりだ。それが昨年春の八王子巡業で実現。そのときの新聞記事には、
“いつもは横綱白鵬の大銀杏を結う床山の「横綱」に髪をさわられた遠藤は「雰囲気がありますね。毎日、お願いを言い続けてよかったです」と大満足”と書かれていた。(スポーツ報知/2018年4月21日)
「遠藤の頭やりはじめた瞬間に報道陣がバーッと囲んできて、自分はあがり症でしょう? 緊張しちゃって、終わったら遠藤が『トイレ行って鏡見てくる!』って言うから『今日はやめて』ってお願いしました。『じゃ、今度もう一回あるの?』って言われたけど、それ以来、果たせてないですねぇ」
それからもうひとり、床蜂さんに結ってもらいたいとお願いしていた人がいた。それは、今年2月に亡くなった横綱双羽黒だ。彼が横綱に昇進した1986年、「章さんを付けてください」とお願いし、やることになった。いろいろなことを言われ続けた双羽黒だが、床蜂さんは「人間的に悪いやつじゃないです。親方からは話を聞いてないから何とも言えないけど、本人の言い分を聞けば、それもなぁと思えます」と言う。
例えば、双羽黒は自分より下の弟子や付け人をいじめると言われていた件に関しても、簡単にはそうだと言えない事情があった。
「幕下の子とか、なんとか強くしてやりたいと厳しくしていると、親方に『北尾(双羽黒の本名)、おまえの弟子じゃないぞ』と言われてカチンときたと言ってました。自分では兄弟子としての責任感で、いじめだなんて思ってないんです。一度、札幌で一緒に飯を食いに行こうって話になり、双羽黒が『付け人たちもみんな連れて行く』って言うんで、『一緒に行きたいか本人たちに聞いて確かめたほうがいいよ』と言ったら、『オレと飯食いに行くのは嫌か?』なんて聞く。だから、そんな聞き方しちゃダメだよって言ったけど、そういう物言いがうまくできない人でしたね」
人とのコミュニケーションがあまり上手にとれなかった双羽黒。さらに床蜂さんは言う。
「だいたい、横綱ってものは孤独なんですよ。みんな横綱となると、引くじゃないですか。若い子たちからしたら、横綱と出かけるより、自分たちだけでいたいと思う。そういう意味ではかわいそうです」