育てる環境が大事

 野球といえば、今年いちばん注目されたのは岩手県・大船渡高校の佐々木朗希投手。4月の『U-18』で163キロのストレートを投げ、ファンの話題をさらった。

“令和の怪物”と呼ばれるくらい、才能を持った選手ですね。夏の地方大会の決勝で彼が投げずにチームが敗退したことで物議を醸しました。賛否両論出ていますが、あの選択はしかたがなかったと思います。

 163キロを投げたあと、大船渡の国保監督は彼を病院に連れて行ったそうです。それはケガのチェックではなく、骨密度の検査のためだったそう。その結果、彼は身長が190センチあるんですけど、まだ背が伸びる成長過程にあると診断されたと。身体ができあがっていない状態で、投げすぎないほうがいいという話になったそうです」

 佐々木投手については、野球評論家の張本勲が「絶対に投げさすべき」と発言し、それに対してメジャーリーガーのダルビッシュ有が反論するなど、監督の指導を含めた問題になった。

「今、スカウトの中で話題になっているのが、佐々木を指名するか。あれだけの逸材を欲しいというのは本音ですが、育てられなかったら、壊してしまったら、というおそれもあるんです。

 才能を持った神童が、神童として輝き続けるためには、才能だけではなく環境も大事なんです。スカウトから聞いた話ですが、“この選手はこの指導者の教え子だからとろう”という監督もいるそうです。この人が育てたなら間違いないと。でも、“あの人のところでやっていたんじゃダメだな”という逆もあるそうです。それだけ環境が大事なんです」

 その環境が分けた、いい例が“ハンカチ王子”こと斎藤佑樹と、“マー君、神の子”といわれた田中将大だという。

「'06年に甲子園の決勝戦で投げ合ったふたりですが、田中はメジャーリーガーとしてヤンキースのエースに。片や斎藤は日本ハムファイターズで1軍と2軍を行ったり来たり。いつ戦力外に?と言われています。

 田中は高校を出てすぐに楽天で野村監督の下に入ったことがよかったですね。コーチも現役時代“いぶし銀”といわれた佐藤義則コーチもいたし。斎藤は大学に行ってからフォームを変えて、ほとんど手投げになってしまった。ふたりとも才能はあるんです。ただ、それを伸ばせるかどうかは指導者なんですよね

 実際、才能がありながら世に出られなかった“神童”はたくさんいる。しかし今、子どもたち自身にもある変化が見られるという。

才能があるのに努力しない子が増えています。競技に24時間、自分の時間をつぎ込む勇気がないというのかな。全員じゃないけど、高校に行ったら遊びたい、彼女をつくってどこかに行きたい……。だから、強豪校の私立からスカウトが来ても、公立へ進学してしまうんです。

 ときどき、無名の公立校が県予選で勝ち上がってくるときがあるじゃないですか。それって、本来なら強豪校に進んでいた選手が、公立に流れてきた結果ということが多いんです。人の人生だから何も言えませんが、せっかく授かった才能はムダにしてほしくないですね。野球に限らずこんな状況が続くと、天才というアスリートはこれから出てこなくなってしまうかもしれません」


《PROFILE》
飯山滿さん ◎スポーツライター。さまざまな現場を取材し、アスリートたちの実状をルポする。著書に『消えたアスリート』(ミリオン出版)『パ・リーグドラフト1位のその後』(宝島SUGOI文庫)など