軽減税率は弱者のためのものではない
生活を維持するものとして、軽減税率を適用するべきものはもっとたくさんあるとあんびるさん。
「食料品に適用されたことは当然のこととして、電気・ガス・水道が抜けているのはおかしい。北国の人にとっては灯油もライフラインに入るでしょう。今回、新聞が“知る権利”を保証するために軽減税率の対象となりましたが、庶民で新聞を定期購読している人は減りつつあります。
むしろ、ネットから情報を取る人がかなり増えていることを考えたら、通信料も対象にしたほうがいいのでは。ネットでも話題になりましたが、紙おむつや生理用ナプキンも生活必需品なのに10%です」
ちなみに財務省の資料によると、ヨーロッパの多くの国で、食料品のほか水道水、外食、雑誌や書籍、医薬品にも消費税の軽減措置がある。
「日本の軽減税率が弱者の立場で考えられたものではないということがよくわかります」
そのヨーロッパでは近年、軽減税率の効果を疑問視する声が広がっている。税理士の湖東京至さんによれば、ヨーロッパ連合(EU)の執行機関であるEU委員会では、軽減税率の廃止や見直しが提言されているという。
「事業者の事務処理が大変なうえ低所得者対策にならないとの批判があるほか、軽減税率のために国の税収が減っているからです。軽減税率をやめれば税収が上がり、むしろ標準税率を引き下げられるという考え。軽減税率の本家ヨーロッパが廃止や見直しへ動くなか、これから導入する日本は世界の流れに逆行していて時代錯誤です」(湖東さん)
このほかにも景気の落ち込みを防ぐため、キャッシュレス決済時のポイント還元が9か月限定で実施。また、プレミアム商品券、マイナンバーカードを使って貯める全国共通ポイントの発行、低年金者への最大で月5000円の給付金などが講じられている。
しかし、これらの対策で家計の負担が軽くなるかと言えば、はなはだ疑問だ。
「救済効果は微々たるものでしょう。食べ盛りの子どもがたくさんいる家庭ならともかく、高齢者世帯の食費は少ないので、家計を預かる主婦にとって軽減税率の効果はあまり感じられないのでは? ただ、外食の回数が減る、中食の回数が増えるといった変化はあるでしょうね。そういう意味で、いちばん影響を受けるのが外食産業、小売店などの流通産業でしょう」(あんびるさん)
一方、経済アナリスト・森永卓郎さんはこう指摘する。
「消費増税で生まれる負担は5兆7000億円です。それに対して、軽減税率の減税規模は1兆1000億円で増税額の19%ほど。総務省の家計調査によると、外食やお酒を除く食料費もおよそ2割です。つまり軽減税率をやったとしても、残りの8割は家計を襲うということ。しかも、プレミアム商品券とポイント還元に振り向けられる予算は4500億円しかありません」