私たちの老後生活を支える年金は、これからどうなるのか─、それを指し示す報告書が8月27日に厚生労働省から発表された。「将来の公的年金の財政見通し」(通称、財政検証)だ。通常なら6月に発表されるはずのものだが、今年は2か月遅れての発表に。
「参院選前に発表すると、与党の選挙結果に不都合な影響を及ぼすことでも書いてあるんじゃ……」という参院選への「忖度疑惑」も飛び交うなか、ようやく判明した。
「もうまったくダメ。すでにダメ」
その内容について「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾さんは、次のように指摘する。
「年金制度は危機的な状況です。受給額が増えそうな見通しはひとつもありません。以前、年金だけでは2000万円足りないという老後2000万円問題が話題になりましたが、それどころか2500万円、3000万円も足りない。そういう内容になっています」
そもそも年金制度は「100年安心」と発表されていたはず。いったい、どういうことなのか?
「確かに、制度自体は100年維持できるでしょう。極端な話、年金が月2万円に減ったとしても、制度そのものが存在していればいいわけですから。ただ、いまのように現役世代が払った保険料を高齢者に配るという世代間扶養の『賦課方式』を続ける限り、先行きは暗い。
少子高齢化で、1960年ごろは11人の現役世代で1人の高齢者を養っていたのが、いまは2人の現役世代で1人の高齢者、いずれは1・3人で1人を支えなきゃならなくなる。こうなると世代間扶養なんてどだい無理な話で、年金額は減る一方でしょう。制度自体はボロボロになりながら維持できるでしょうが、その年金で老後生活が賄えるかといえば、もうまったくダメ。すでにダメという話です」(北村さん)
今回発表された「財政検証」では、経済状況などで6つのパターンを想定して今後の年金額などを試算している。どのシナリオが現実的なのか気になるところだ。
「楽観的な見通しはあてにしないことです。6つのケースのうち真ん中に当たるケース3が直近の経済状況に近い試算でしょうが、最悪のケースになる危険性も十分にはらんでいます。出生率が劇的に改善される見込みがない中、世代間扶養という制度自体を根本的に見直す必要があるのにそれをしないわけですから、真ん中のケースでさえ楽観的すぎます」(北村さん)
財政検証の計算方法に問題があると話すのは、鹿児島大学の伊藤周平教授だ。
「所得代替率を計算するとき、分子の“高齢者が受け取る年金”は課税前であるのに対し、分母の“現役世代の所得”は課税後の手取り。分子と分母を同じ基準にそろえて計算すると所得代替率は低下し、数字が大きく変わります」