逆境にも怯まず、明るく過ごす主人公

 主人公の秀男は、自分のことを「あたし」と言う、きれいな顔立ちをした小柄な男の子。兄ではなく姉と遊ぶことを好み、美しい人やものに惹かれ、女性のような言葉遣いをすることから、学校で「なりかけ」といじめられますが、決してひるまず、泣きもしない。自分は間違ってなどいない、「生まれ落ちたこの身体と性分をせめて自分だけは好いていたい」という強い信念があり、自分の居場所を自ら作っていきます。

「この小説は新聞連載だったんですが、読んだ麻紀さんから『あの話ってしたっけ?』と言われることがときどきあったんです。でも聞いてしまうと事実を書くことになるので、『言わなくていいです!』と申し上げて、聞かないようにしていました(笑)。

 でも私の想像が間違っていないとすれば、書いた甲斐がありますし、そう思ってもらえるくらいリアルな小説になっていたらうれしいです。見てきたようにウソを書いているので(笑)」

 幼い秀男は、初詣で会ったよい香りのする美しい女性にまた会いたいと、ひとり花街へと出かけ、そこで働く華代と出会います。女になりたいと言う秀男は、華代から「この世にないものにおなりよ」「そうじゃなきゃ、他人様にああだこうだ言われたまま人生終わってしまうだろう」という言葉をかけられます。そして初めて恋心を抱いた同級生に正直に気持ちを伝え、何でも話せる親友ノブヨとの友情を温めます。

「秀男はどんどん明るいほうへ行くし、悲壮感が全然ない。どうしたらそんなに強くなれるのか、その理由が知りたくて麻紀さんに電話をしたら、『あんた、そんな悩んでいる暇なんかなかったわよ!』と言われました(笑)。

 その言葉で、生きることの答えはここにあったんだと思いました。居場所は人から与えられるものではなく一生懸命、生きて自らたどり着くものなんですよね」