会社経営に失敗してアルコール依存症に
ユニットバスの中で孤独死
10年以上にわたって原状回復工事を手がける武蔵シンクタンクの塩田卓也さんも、数多くの40代の孤独死現場に遭遇しているひとりだ。この日は、電話があったのはある賃貸アパートの大家からだった。
入居者である40代男性が、ユニットバスの中で孤独死。ユニットバスから流れ出た水が下の階の部屋に漏水してすさまじいにおいを放っているので何とかしてほしいとの電話だった。
現場に行くとユニットバスの排水溝は、髪の毛が詰まっていて水が流れなくなり、ユニットバスから水があふれ出ていた。下の階には、住民が住んでおらず発見が遅れたのだという。
ユニットバスの床には、未開封の焼酎が何本も放置されていた。部屋の中は、どこかしこもお酒の缶であふれていて、典型的なゴミ屋敷だった。男性は、何枚ものカーテンを安全ピンでとめてあり、外の太陽光を遮断して、ひきこもっていたようだった。
塩田さんは現場の様子をこう語る。
「故人様は、会社経営で失敗したみたいです。抗酒薬などがありましたが、部屋の状況から察するに、アルコール依存症でしょう。大家さんは70代の女性だったのですが、若いころに息子を亡くしており、今回の孤独死も同じ年代の男性ということで、ショックを隠し切れない状況でしたね。数多く孤独死現場を経験していますが、下の階への汚染がすさまじく、衝撃的な現場でした」
男性の遺品の中には、サラ金の金銭消費貸借契約書や借金支払いの督促状などがあり、借金を繰り返し、なんとか食いつないでいたらしい。
自殺未遂を繰り返していたのか、血のついたカッターナイフ、練炭などが部屋にはあった。飾ってあった写真からは、過去に高級車を乗り回していたものもあり、商売がうまくいっていた時期もあったと思われた。
大家の女性によると、火災報知器などの交換時期に何回か部屋を訪問したが、いつも応答はなかったという。
孤独死現場の施工はこれまでにないほどに大がかりとなり、結局、腐敗臭がおさまった段階で、建物そのものを取り壊さざるをえなくなった。ユニットバスから漏れた体液や水漏れで、建物も大きなダメージを受けたので、もはや修繕する気もないと大家は肩を落としたという。このように、孤独死は物件そのものへのダメージも大きくなってしまうという辛酸な現実もある。