じゃあ、私ならどう?

 とりあえず「結婚すればいいんでしょ!」などという捨て台詞を吐いて外に出たものの、本人の意思をまったく聞いてなかったことに気づいた私は、近くのカフェでお茶を飲みながら彼に聞いてみた。

「ねえ、勢いであんなこと言っちゃったけど、あんたはどうしたい?」

「日本にいられる方法がそれしかないなら結婚したいけど、ワタシがゲイだと知らない女の人を騙して結婚するのはイヤ。その人の人生を不幸にしてしまうから」

そうね。じゃあ、私ならどう? 私はあんたがゲイだって知ってるし、どうせバツイチだから結婚のハードルは低いわよ。うまくいかなきゃバツ2になるだけだしね」

「アナタはそれでいいの?」

「全然いいわよ。ただ、取り決めはしときましょ。私とあんたは恋愛もセックスもしない間柄だから、お互いに恋愛とセックスは外で自由にやる。そして、外での恋愛やセックスは一切、家に持ち込まない。それでどう?」

 こうして私と彼は結婚することになり、前述したように「偽装結婚」だの「どうせすぐ別れる」だのと言われたわりにはそのまま20年以上も続いているわけだ。確かに最初の目的は夫の日本在住権のためであり、私自身も「どうせ彼に恋人ができたら別居か離婚になるんだろうな」と思っていたので、「偽装結婚」と言われても仕方ないだろう。

 しかし、「夫婦間にセックスがない」という理由で「あんなの本当の結婚じゃない」などと安易に決めつけたアホなマスコミにはひと言いっておきたい。

 結婚とは、そして夫婦とは何ですか? セックスしてれば本物の夫婦だと言うのなら、この世に大勢いるセックスレス夫婦はみんな「偽装結婚」なのか? 夫と私の間には恋愛もセックスもないが、親友時代に培った誰より強い信頼と絆がある。

 その一方で、恋愛で結ばれたものの互いに相手を信頼してない夫婦、絆どころか憎み合ってすらいる夫婦を、私はたくさん知っているのだ。はたして、どちらが「本物の夫婦」と言えるのか?