本当に描きたいことは外からやって来る

──『いつもポケットにショパン』(※5)のお母さんや『海の天辺』(※6)の山崎先生など、くらもち作品の作品にはすてきな大人のキャラがいて、その大人の視点や倫理観が作品にしっかり織り込められています。

 描いたのが20代の後半だったのですが、当時の私が好きだった大人の女性像への憧れが強く反映されています。キャラクターは私の分身で、もちろん主人公は私自身ではあるんですけど、子どもっぽい部分が主人公で、主人公に入れられない部分はまわりのキャラクターに入れていきました。

──どなたかモデルがいたのでしょうか。

 山崎先生のモデルは私の高校時代の先生で、ちょっといいなと思っていた音楽の先生と漢文の先生のミックスです。生徒に媚びず、すました感じのクールな先生でした。だけどなぜか私は怖いとも思わず、将来、少女マンガ家をめざしたいという相談を、担任ではなくその先生にしたことがあるんです。動物的な勘なんですけど、その先生に言いたくなったんですね。

 大人になって、ああ、私、ああいうタイプが好きだったんだ、だったらあのタイプ描きたいな、と、そういう流れですね。

──それと同時に子どもの世界も生き生きとお描きになる。今の10代の子たちのカルチャーにも詳しいのがすごいです。

 仲良しだった多田かおるさんがものすごいオタクだったんですよ。アニメイトに連れてってもらったり、ゲームも多田さんに教わりました。ゲーム機を買って『ドラクエ』やりだしたり(笑)。

──身の回りに素晴らしいガイド役の方がいらっしゃったんですね。

 多田先生以外にもマンガ家さんってものすごく知識が豊富な方たちばかりで、そういう方々とお付き合いをしていると、ツイッターやインスタのやり方も教えてもらえるんですね。勉強っていっていいものかわからないのですが、そういうところで面白いと思えることがいっぱい吸収できたんですね。

 それがあったからここまで描けたと思うし、そういう外から入ってくるものがなかったら、もっと早く描けなくなっていたように思います。

──自分の中から出てくるリアルなものと、外から入ってくる新しいものとの相乗効果で作品が作られているのですね。

 それこそ現金書留封筒の口みたいに、幾重にも折り重なってできているんですよ。自然に描きたいと思えるものは、自分で探すよりも飛び込んできてくれるものでした。

──なんでも「面白がれる才能」もあるのでは。

 自分自身にたいした知識はないんです。ただ、面白いと思ったものは自分の中に吸収したくなる。オタクだしミーハー。そういうものがないと、ここまで来れなかったでしょうね。

──今はスマホをお使いのようですが、もしかして『DQウォーク』(※7)もやってますか?

 やってます(笑)! スマホでよくゲームするんですよ。いま若い人たちがゲームとかアニメの方に傾いているんですよね。だから触れておきたい世界なんです。遊びではあるけど、どこにつながるかわからない。なにをやっててもムダは一切ないなと思います。

──いまお母様の入院生活をお手伝いなさっていますが、それも貴重な経験でしょうか。

 面白いです、というのも不謹慎かもしれませんが、いろんなお年寄りや看護師さんにお会いできるんですけど、考え方とか人との接し方が見えてくるんですよね。非常に勉強になりますし、私は就職せずにこの世界に入ってしまって、ほかの社会を見てないから、いろんなことが新鮮でしょうがないんですよ。