22歳の若者への引退勧告

 ところで、この少し前、千賀ノ浦部屋の十両・貴ノ富士が引退を発表した。貴ノ富士は2018年3月、大阪場所の支度部屋で付け人から出番の時間を間違って伝えられたことに腹を立てて、大勢がいる前で暴言とともに拳で付け人の顔を殴り、殴られた付け人は口から出血をした。

 このことで彼は1場所の謹慎を受けていたが、8月末に千賀ノ浦部屋内で再び別の付け人を殴ったことが発覚。さらにイジメをしていたこともわかって、相撲協会は彼に引退を促した。貴ノ富士は最初、スポーツ庁に上申書を提出したり、暴力を否定する記者会見なども行ったが、最終的に引退した。

 貴ノ富士の2度目の殴打がどんな程度だったのかは外部の誰も見ていないのでわからないが、15歳で相撲部屋に入門した22歳の世間知らずの青年を、ここでいきなり辞めさせてしまっていいのか? と思う。だって、彼と双子の弟の貴源治をそろって「期待の若手」として、さんざんテレビや雑誌で持ちあげてきた。190センチ、157キロ(貴ノ富士)。立派な体躯(たいく)を持ち、21歳で関取になって、将来は双子で幕内、大関へと、テレビ中継でも何度もほめそやされ、それは貴ノ富士が1度目の事件を起こしたあとも変わらなかった。

 事件を起こしたものの、たった1場所の謹慎で、戻ればまたちやほやされた22歳の若者、しかも自分の怒りをコントロールすることができない若者が再び事件を起こすことは予想がつき、そのとおりに事件を起こしたら、今度はいきなりの引退勧告って?

 以前、私は「相撲界の暴力問題で消えつつある、相撲部屋が持つ大切な側面」という記事を書いた。そこに書いた“社会のセーフティーネットとしての役割”を、ここでこそ存分に発揮してほしかった。いや、千賀ノ浦部屋が発揮していなかったというのではない。もっと部屋が存分にそれができるよう、相撲協会が応援してあげられる体制であってほしかった。でも、今は規定や宣言やらに縛られて、それができなくなってしまっている。

 話は今回の事件に戻る。