親が子どもを手にかける……恐ろしいことだ。いったい人は、どんな理由でわが子を殺してしまうのだろう。

 2019年3月、東京・目黒区で、当時5歳だった船戸結愛ちゃんが虐待の末、放置され死亡した。父親は、連れ子である結愛ちゃんを「理想の子どもに育てたい」と過剰なしつけを行っていた。5歳児が、自ら目覚まし時計をかけて朝4時に起床、かけ算の九九やひらがなを練習していたという。「モデル体形でなくてはならない」と食べ物まで制限された。結愛ちゃんが書いた

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」

 という手紙は、衝撃的だった。父親に懲役13年、虐待を止めようとしなかったとされる母親には懲役8年の判決が出ている。

 6月に起きた元高級官僚による長男の刺殺事件も、胸の痛む事件だった。父親は農林水産省事務次官や元チェコ大使を歴任。当時44歳の長男は引きこもりでオンラインゲームに没頭、家庭内暴力も激しかったという。長男が、近所で開かれていた小学校の運動会の音に「うるせーな、子どもぶっ殺すぞ」と言ったのを聞いて「自分の息子が第三者に危害を加えるかもしれないと思った」と殺害を決意(この事件の直前、川崎市多摩区の路上でスクールバスを待っていた小学生ら20人が殺傷される事件が起きている。51歳になる容疑者は「引きこもり生活をしていた」と報道されていた)

 父親は息子が引きこもっていることを悩んでいたが、誰にも相談しなかった。たったひとりで抱えていたのだ。

 この父親には「親としての覚悟を感じる」「親としての責任を取って立派だ」といった称賛の声がある一方、逮捕後も悪びれることもなく正面を見据えて毅然(きぜん)と歩む父親の様子に「自分の正しさをアピールしているよう」「冷たい」「悲しみや苦しみが感じられない」などの声もあった。

 2つの事件に共通するのは「立派な父親でありたい」という強い願いだ。後者には「世間に迷惑をかけられない」という気持ちや面子もあり、相談すらできなかったのだろう。実はこの「立派でありたい」「男らしくありたい」「迷惑をかけたくない」という気持ちが、犯罪の大きなリスクになっている。