この女性は一度、深谷容疑者に助けを求められたことがある。自宅トイレで用を足したヒデさんが車イスに戻るときに転倒したため、抱き起こしてあげたという。
周囲と積極的に交流し、困ったときは「助けて」と言える容疑者は、なぜ最悪の道を選んだのか。そこには25歳差カップルならではといえそうな事情があった。
年の差夫婦の馴れ初め
時計の針を少し戻そう。
ヒデさんと長年親交のある郡山駅前の洋服店店主が「ヒデさん本人から聞いた話」として年の差夫婦の馴れ初めを打ち明ける。
「ある日、店に来て“私、結婚したんだぁ”って嬉しそうに言うんです。だから“あらそう、おめでとう! お相手はどんな方? どこで知り合ったの?”などと質問攻めしたら、“出会いは飲み屋さんで……”と教えてくれて」
ヒデさんは女優に似た美形。店主の話によると、店の常連だったヒデさんがひとりで飲んでいると、おとなしくまじめそうな男性客が入ってきた。朗らかな性格というヒデさんのほうから話しかけると、男性客は地元で有名な大企業の工場で働いているといい、「独身です。彼女は募集中です」と笑ったという。
当時、ヒデさんは60代後半。その男性客が深谷容疑者で40代だった。年齢差のほか、ヒデさんには前夫とのあいだに息子がいて他県で暮らしており、「じゃあ、いい子がいたら紹介してあげなくちゃね」などと盛り上がった。ヒデさんが先に会計を済ませて店を出ると、あとから慌てて会計した深谷容疑者がトコトコと付いてきた。
雪の降る寒い夜だった。
おしゃべりしながら歩くうち、ヒデさんが暮らすアパートが近づいてきた。
「寒いでしょ。うちに上がってコーヒーでも飲んでいく?」
深谷容疑者はうなずき、翌日も、翌々日もヒデさん宅に来るようになり、やがて同棲するようになったという。
再び店主の話。
「同棲は数年続き、ヒデさんが“私も70歳を過ぎどんどん歳をとる。はっきりしてほしい。一緒になるのか、ならないのか”と迫ったらしいんです」
深谷容疑者は「結婚する。一緒になりたい」と答え、ヒデさんを故郷の母親に紹介すると約束した。山間部で暮らす姑に挨拶に行くと、ヒデさんより年下だったが、「息子をよろしくお願いします」と頭を下げられた。ヒデさんは72歳だった。2人で現在のマンションに引っ越し、新婚生活が始まった。
「旦那さん(深谷容疑者)はとにかくヒデさんが大好きで、店に来たときは“ヒデちゃん、なんでも好きな物を買いな。いくつでもいいから”と言っていました。でも、やがてヒデさんのパーキンソン病が悪化し、手をつないで歩かないと転んでしまうようになった。約10年前から車イスが必要になった。旦那さんは早期退職してヒデさんの介護を始めたんです」(前出の店主)