夫が使い分ける“飴の日”と“鞭の日”
もし、鞭(むち)ばかりを振るうような夫なら千穂さんはさっさと愛想を尽かし、結婚生活を続けるのをあきらめ、離婚へ舵(かじ)を切ったでしょう。しかし、夫は鞭をふるうだけでなく、飴(あめ)も与えたので、“飴の日”と“鞭の日”、どちらが本当の夫なのかわからずに混乱し続ける日々。
まず鞭の日ですが、夫の虫の居所が悪いと大変です。千穂さんが話しかけても無視されるのはまだ序の口。「なんで怒っているの?」と尋ねようものなら大変です。「別に怒っていない! お前がこうさせるんだ!! お前の言い方が悪いだろ!?」と逆上するだけでなく、「お前とは合わない。離婚して養子縁組は解消だ! 弁護士を雇ってやるからな」と脅し文句を並べ立てるのです。
しかし、飴の日は一変。「無理ばかりでごめん。お前の病気は俺のせいだ。一緒に病院へ行こう」と穏やかな顔で優しい言葉をかけ、体調を気遣ってくれるのですが、結局、病院に行くころには鞭の日に戻るので、付き添う約束は守られず。
そして「離婚するから出て行けなんて、冗談に決まっているだろ? お前らは大事な家族だし、ずっと一緒だ」と涙ながらに謝罪し、離婚を撤回し、将来を約束してくれたのですが、舌の根も乾かぬうちに「保険証、車の鍵、通帳を返せ! 俺の家だろ!? お前らは出て行けよ!!」と当たり散らすことも。
鞭の日を我慢すれば、飴の日がやってくるので、千穂さんは「もう少し頑張ろう」と踏みとどまるという堂々巡り。飴の甘みと鞭の痛みが交互にやってくると、痛みのせいで甘みが引き立つのでなおさら、悪循環から抜け出せずにいたのです。結局、飴の日の夫を信じるがあまり、何を言われても従うしかなく、徐々に判断能力が薄れていったのです。これは夫が相手を服従させるための罠(わな)でした。
ついに夫は酒を飲むと暴力をふるうように
千穂さんが夫の手のひらで転がされ、何もできずにいる間、妻子が置かれた状況はますます悪化し、夫はついに手を上げるように。「主人はお酒を飲むと暴力をふるうんです」と千穂さんは涙ながらに声を枯らします。泥酔して帰宅した夫は千穂さんが用意し、テーブルに並べた料理を皿ごと投げ捨てたのですが、それだけではありませんでした。千穂さんに向かってグラスを投げつけ、さらにキッチンカウンターに置かれた台所用品をはたき落としたそう。
千穂さんは恐怖のあまり、2人の子どもを連れて寝室に逃げ込み、鍵をかけたのですが、寝室でおびえている3人に向かって「全部、お前らのせいだ! わかってるんだろうな!!」と怒鳴りつけてきたのです。
しかし、夫が千穂さんに手を上げてケガをさせたのは今回が初めてではなく、すでに4回目。さすがに今回は震える手でスマートフォンを操作し、夫の罵声(ばせい)をボイスメモで録音しておいたそう。そして破壊された家電、家具などを写真に撮るなど、「何かのとき」のために手を打つことができたのは不幸中の幸いでした。
千穂さんにとって最も大事なのは夫ではなく2人の子どものはず。千穂さんはようやく手に入れた金銭的、精神的、そして生活的に満たされた日々を手放したくなかったのですが、夫の手によって幼子の命が危ぶまれる状況に至って、やっと結婚生活を捨てる覚悟をしたのです。もはや一刻の猶予も許されない危機的なタイミングでした。
(後編に続く)
※後編は11月24日21時30分に公開します。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/