行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は連れ子がいて結婚する場合のトラブル事例を紹介するとともに、その解決法を考えていきます。(後編)
22歳で未婚のまま長女を出産し、シングルマザーとして昼夜の仕事をかけ持っていた千穂さん。心身ともに疲弊していたとき恩田圭(仮名)と知り合い、3年前に結婚。夫と長女は養子縁組をして恩田姓となった。翌年には長男が誕生するが、徐々に夫のDV、長女への差別に悩まされるように。千穂さんは夫の手によって幼子の命が危ぶまれる状況に至って、やっと結婚生活を捨てる覚悟をしたが──。
夫:恩田圭(38歳)自営業(土木業、年収不明)
妻:千穂(32歳)専業主婦
長女:奈々(10歳)千穂と既婚男性との子
長男:義人(1歳)千穂と圭との子
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離婚に向けての第一歩は離婚調停。離婚の成立には原則、夫の同意が必要ですが、千穂さんは夫に対する恐怖心に苛(さいな)まれており、スマホを持つ手が震え、夫へLINEの返事をするにも苦労するありさま。実際、心療内科の医師から「無理に旦那さんと話さなくてもいい」とドクターストップを出されている状況で、夫を直接、説得するのはとうてい無理でした。
一般的に家庭裁判所へ調停を申し立てると、夫と妻は別々の部屋で待機します。そして妻は調停委員に話をし、調停委員は妻の話を夫へ聞かせます。今度は夫が調停委員に話をし、調停委員が夫の話を妻に聞かせるという形で調停委員は伝書鳩の役割をします。このように裁判所内で夫婦が顔を合わせず、声も聞かず、同じ空気を吸うこともないので安心です。
夫と同居したまま離婚調停を申し立てる
調停は本人同士が話し合って解決できない場合に申し立てるのが大半なので、ほとんどの場合、すでに夫婦は別居しています。しかし、千穂さんの場合、両親が離婚しており、実家にいるのは母親だけ。しかも母親は再婚しており、千穂さんが子連れで実家に戻りにくい環境でした。そして千穂さんには収入がなく、保証人を頼める友人・知人はいないので、自力でアパートを借りるのも難しい状況。さらに夫に直談判できる精神状態ではないので、夫を自宅から追い出すことも困難。千穂さんは夫と同居したまま離婚調停を申し立てるしかなかったのです。
そのため、裁判所から同じポストに夫用と妻用の呼び出し状が届くのですが、前もって夫へ話を通さずに申し立てをしたので、夫が烈火のごとく激怒したのは言うまでもありません。結局、千穂さんは離婚が成立するまでの間、夫が帰宅する頃合いを見計らって娘さんの部屋へ逃げ込み、ドアの鍵をかけ、朝まで耐えしのぶという毎日を強いられたのです。これは家庭内別居ならぬ「家庭内避難」です。
裁判所という慣れない環境で初対面の調停委員に対してうまく話せるかどうか不安だったので、千穂さんは前日にこんな手紙をしたため、調停委員に託したそうです。
《今後の人生を考えたときに、どうしてもあなたとともに生きていくことは不可能だという結論に至りました。今まであなたの生き方や、考え方、問題への対処の仕方を見てきましたが、もう私の我慢でどうにかなる問題ではないと思い、離婚を決めました。あなたが最初に手を上げてから1年。私なりに距離を置きながら考えた結果です。私の意思が変わることはありません。今後は子どもの人生を支えることを何よりも優先し、陰ながらお互いの人生の幸せを願えるようになれたらと思います。》
調停委員は夫に手紙を渡してくれたのですが、夫は千穂さんの切実な訴えに対して、どう反応したのでしょうか? プライドの高い夫は、妻の言いなりになるのは虫唾(むしず)が走るはずです。本来なら妻が望んでいることとあえて反対のことをする傾向がありますが、離婚に限って天邪鬼(あまのじゃく)は通用しません。
なぜなら、離婚を望んでいる妻に対して「離婚しない」と突っぱねた場合、夫は妻に未練があるのではないかと誤解されるからです。いくら千穂さんの邪魔をしたくても「二度と手を上げないし、約束はちゃんと守るし、きちんと心を入れ替えるから考え直してくれ!」とは口が裂けても言えないでしょう。夫は二つ返事で離婚を承諾するしかなかったのですが、決して妻子のためではなく自分のためです。