真実告知は絶対にするべき
最初の説明会に参加してから治療開始までにかかる期間は、早くて3か月から半年ほど。その間に頭を冷やし、夫婦でじっくりと話し合ってもらうのだという。それでも生まれた後、何年かして「私たち夫婦から生まれたというには頭がよすぎて、周囲から似てないと言われる」などといった“クレーム”がきたこともあったという。
同クリニックでは生まれてくる子どもへの、真実告知も強く推奨する。真実告知とは、父親と血縁がない事実を子どもに伝えること。養子縁組家庭や再婚家庭でも行われる。
「AIDを希望するご夫婦には、真実告知は絶対にしたほうがいいと伝えています。子どもが小さいうちから“あなたはこんなふうに生まれてきて、精子提供者はわからないけれど、私たちの子なんだよ”と伝えておけば、子どもは安心するでしょう。黙っていればわからないだろうと親は思っても、子どもは敏感だから隠し事を察するし、大きくなってから事実を知ると裏切られたと感じて傷つきます」
なおAIDの件数は近年、増加傾向にあるものの、実施する病院は減っているという。原先生は理由のひとつを「管理費やその後の相談処理などに手間がかかるため」と推察する。
また昨今は『子どもの出自を知る権利』が重視されるようになり、提供精子の確保が難しくなってきたためだ。出自を知るというのは、子どもが遺伝上のルーツを知ること。AIDであれば精子提供者が明かされることになる。海外では成人した子どもが希望した場合、提供者の情報開示が義務づけられている国もあり、日本でも今後、同様の方向に進む可能性は考えられる。
慶応大学病院は2年前から精子提供者を募る際、将来的に提供者の情報が開示される可能性を伝えるようになったところ、提供者が不足して現在はAIDの初診受付を中止中だ。はらメディカルクリニックでは現状、提供者は確保されているというが、今後どうなるだろうか。
《PROFILE》
原利夫先生 ◎『はらメディカルクリニック』院長。医学博士。日本初の体外受精凍結受精卵ベビー誕生のスタッフとして活躍し、生殖生理学、精子学が専門。