今年納めの九州場所で横綱白鵬が43回目の優勝を果たした。白鵬は2006年5月場所に大関として初優勝して以来14年間にわたって毎年、優勝している。中でも2010年と2014年には年6場所中5回優勝、今年も5月場所の全勝優勝に次いで2度目の優勝となった。

白鵬の“かち上げ”問題

 優勝43回、横綱歴満12年と1場所、34歳でのこの記録は前人未到の偉大なものだと白鵬を大いに称えて差し支えないのだが、同時に白鵬へは多くの批判があるのも事実だ。例えば、この九州場所においては12日目(11月21日)の対・遠藤戦。

 立ち合いで白鵬が見せた遠藤へのかち上げからの張り手に批判が集中した。当日のNHK大相撲中継の解説だった舞の海秀平さんは「遠藤は出血しているみたいですね。過去の横綱はこういう立ち合いはしなかったですけどねぇ。このかち上げというか、ひじ打ちは、見ていて後味悪いですね」と語った。

 当然ながらツイッターにも《こんなのは相撲じゃない!》と白鵬への多くの批判コメントが並んだ。興奮して《辞めちまえ!》と書く人も多く、翌日のスポーツ新聞でも「遠藤流血」「荒ぶる相撲」「顔面エルボー」といった批判的ニュアンスの言葉が並んだ。

 しかし、同時にこうした言葉に疑問を呈する好角家(こうかくか)もいる。ツイッターアカウント@tamaro1969213さんは相撲観戦歴が40年以上で、昭和の相撲を研究するのが趣味だといい、今回も画像をあげてツイートして説明をしていた。

「私が生まれる2年前(昭和42年)の1月場所14日目、それもともに13戦全勝の横綱同士の大一番である大鵬―佐田の山戦、立ち合いで大鵬の左ひじが佐田の山の顔面に完全にヒットしていました。白鵬のは遠藤の首から右顎(あご)あたりに当たっていて、大鵬のは完全に顔面に当たっています。全勝横綱同士の大一番ですから意味合いでは遠藤戦の比ではないですが、当時どのように言われたんでしょうかねぇ」と話す。

 また当日の大相撲中継では舞の海さんのコメントを受けて荒磯親方(元・横綱稀勢の里)が「でもやっぱり、ここにスキができますから。右の脇にですね。白鵬がかち上げた瞬間にですね。そこをうまく突いていくということもですね、しっかり頭に遠藤があればここまでまともにくらうこともないです。僕は左のおっつけがあったからですね、ああいうふうにいってくれたら逆にうれしいもんで、横綱はそれがわかっていたから僕にはああいうかち上げをしませんでしたね」とコメントしていた。

 これにも@tamaro1969213さんは、「荒磯親方(元・稀勢の里)が『かち上げにはおっつけで対抗できました』と解説されていましたが、昭和46年の3月場所で、当時の横綱だった玉の海が、同じく横綱の大鵬の左ひじでのかち上げを右おっつけで封じている映像が残っています。かち上げはおっつけで対応できるのに、最近では稀勢の里以外、誰もやってないということなんでしょうか。稀勢の里の場合は、師匠の隆の里が千代の富士相手にやっていたことを学んで白鵬相手にやっていたんでしょうかね」と語る。

 なるほど、そうなのか、と私は納得した。

 それでもこんな相撲は嫌いだと批判もあろうが、それは相撲を見る人の好き好きであり、お茶の間で、ツイッターで、大いに語り合ってほしい。そのうえで改めて白鵬がどうしてこうも強いのか? を考えたい。

 普通なら34歳の横綱、そろそろ晩年期だと誰もが思う。先場所も右手小指の骨折で2日目から休場した。ひざ、ひじ、と相次いで故障し、満身創痍(まんしんそうい)でもある。しかし、大相撲中継で解説の北の富士さんが「白鵬は出てくると必ず優勝か優勝争いに残る」とコメントするように、みんながこんなにも嫌うように(強すぎる横綱が嫌われるのは北の湖時代からの定番ですので)、白鵬は本当に強い。