本人の知らないところで「あだ名」が拡散していく
9月18日午後8時44分、LINEグループで、バスの中で撮影した孝之さんを含む写真を、加害生徒の主犯が投稿した。別の生徒が数分の間に反応する。
「息子は、そのLINEグループに入っていませんでした。そのため、投稿を知りません。加害生徒たちにとって、息子はターゲットにしやすかったのではないでしょうか」(正さん)
その後、ウケ狙いで授業中にも言われるようになり、クラスの3分の1までに広がっていく。LINEいじめの結果、「あだ名」が拡散したのだ。
10月2日。部活の大会後に、帰りのバスの中で、保存していた孝之さんの写真を切り抜き、「あだ名」にしたキャラクター写真と合成した写真を2枚、LINEグループに投稿した。前の投稿と同じ人物が、画像を流した。
〈作ったなう〉
〈暇なう〉
これに対して別の生徒は〈ねろwww〉と返信したうえで、別のLINEグループに合成写真を流し、〈誰だよこんなの作ったやつ〉と投稿した。こうして、複数のLINEグループの中で、孝之さんはいじめの対象となり、クラスメイトに拡散されていく。
孝之さんはどちらのグループにも入っていない。そのため、どこまで「あだ名」が拡散されているのかわからない。しかし日常的にも、その「あだ名」で言われるようになっていく。
「10月後半は、うつの一歩手前になっていたと思います。高校は、ネットに関する問題点に関心がない様子でした。ソーシャルメディアに関する生徒たち向けの講習会が行われたのは、息子が亡くなった後の、2年生になってからです。しかも一般的なことで終わっています」(正さん)
初めてのSOSから1か月足らずで
10月27日の放課後、孝之さんは、席替えで暴言があったために、初めて担任に相談した。しかし、担任は「また来週、何かあったら申し出るように」と伝えただけで、加害生徒の聞き取りはされなかった。
「翌日は体育祭だったのですが、知らない生徒から指をさされていたようです。これがショックだったのではないでしょうか。LINEグループのやりとりが不特定多数に広まっていると感じたのでしょう。嫌な思いが、大きくなったんだと思います」(正さん)
孝之さんは10月30日、いじめを訴える手紙を書いた。「あだ名」を付けられ、ほかのクラスにも知れわたっているとして、「どうか罰などを与えて何とかしてほしい」「今の自分は彼らを許すことができません。蝕(むしば)まれた自分の心が癒えません」と書いた。手紙の最後には「10/30 5:46著」と記されていた。