プレゼンで資金を調達できる「学校」

 頑張っても評価されない。興味もあって好きな教科がどうしてできないのかわからない。志奈さんは日本の教育システムを飛び出す決意をした。

「日本の教育方針も変わっていけばいいな」と話す露木志奈さん
「日本の教育方針も変わっていけばいいな」と話す露木志奈さん
【写真】世界一エコな学校『グリーンスクール』

「英語だけが目的の留学は認めない」という母の言葉を受け、まずは日本の公立高校を受験し、合格。

 高校入学前、バリ島のグリーンスクールに、家族で短期の体験キャンプに出かけた。

「ジャングルの中にある竹でできた校舎を見て、ここは私の学校だ。ここに行きたい!ってすぐに思った」という志奈さん。英語は全く話せなかったが、入ればなんとかなる自信があったという。

「私はずっと、この子が力を出せるのはなんだろうって考えていました。日本の学校ではこの子の力を十分に発揮できないなとも思っていた。でも、志奈はコミュニケーション能力は抜群なんです。言葉が通じなくてもいつの間にか仲よくなる能力がある。だから大丈夫だろうと思っていました」(由美さん)

 日本の公立高校に夏休み前まで通い、その年の8月から単身でグリーンスクールへ。ひとりだけほぼ英語ができないところからのスタートで、「私にはやっぱり英語を習得するのは無理なのか」と思ったこともあったと言うが、寮で同室の子と仲よくなり、つきっきりで英語を教えてもらえるように。3か月で日常会話をマスターした。

「とにかくそれまで通った日本の学校と全然違う。中3から高3まで4学年が学年関係なく自分に合う授業を選択します。テストもほとんどないし、自分で授業を作ることもできる。授業の計画書を作って学校にオファーするんです。F(落第)がついても、先生は“みんな何か長けていることがあるから大丈夫。ほかに好きなことあるんじゃない?”って聞いてくれる。ネガティブなことは言いません

 グリーンスクールには、生徒のやりたい研究や事業を実現するために学校や教師がサポートしてくれるシステムもある。自らプレゼンし、通過すれば資金を調達できる。生徒の役割は自ら考え、やりたいことを実行すること。そして、そのための環境づくりが学校や教師の役割だった。

「みんな同じ教科書で同じスタイルで教えていたら、個性は伸ばせない。グリーンスクールでは先生たちが心から教えたいことを経験に基づいて真剣に教えてくれる。だから、学びたいという気持ちが生まれるんだと思います」

 同年代の生徒からも影響を受けた。洋服のブランドを立ち上げて売り上げをインドの子どもたちに寄付した生徒や、環境活動を起こしてバリの法律を変えた同級生もいた。

 志奈さんは、妹が化粧品で肌荒れを起こしたという身近な問題をきっかけに、化粧品の成分の勉強を始め、肌の健康に影響のない化粧品を開発。調べれば調べるほど、知識も視野も広がる。最後には環境問題にたどり着いた

 グリーンスクール在学中からオーガニックコスメブランドDARI BARIを立ち上げ、肌にやさしい手作りの化粧品を作りながら、ワークショップを開催。「自然化粧品」という名称のものの多くにも化学物質が使用されており、動物実験が行われていることや、地球上で起こっている環境問題を伝え、持続可能な世界を維持するための知識を共有してきた。卒業後も、日本で定期的にワークショップを開催し、人気を集めている。

環境に対する負荷を減らす考え方はグリーンスクールでは普通だった。でも、日本に戻ってきて、みんながあまり環境について考えていないことに衝撃を受けました。日本の大学に入ったのは、化粧品を通じて環境問題を広めたいと思ったから。大学で学びながら、会社設立に向けて活動を続けたいと思っています」

 9月、志奈さんは慶應義塾大学環境情報学部に入学した。

 ワークショップでは、参加者にこんな言葉を届けている。「消費者の選択が地球を変える」─私たちの行動が地球の未来につながっていることを、志奈さんは化粧品を通してしっかりと届けている。その瞳に迷いはない。

容器の素材も自然の竹筒にこだわる
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