親から子へ受け継がれる歌
べんさんのコンサートは、子どもだけに向けたものではない。冒頭の『おまじない』という曲を歌うとき、べんさんは、お母さんやお父さんがギュッとしてほしいときについても必ず歌う。
「べんさんの歌は、私にとっては子育ての応援歌です。10年くらい前、下の子が生後3か月のころに歌を聴いたら、涙がポロポロとあふれ出てきました。子育てがすごく大変で、それまで感じないようにしていた感情が抑えられなくなりました。こうして歌を聴いていいんだ。自分が楽しいことをしてもいいんだって思える不思議な歌なんです」
子どものためについてきたお母さんやお父さんが涙を流すことも多い。
40周年の全国ツアーは、100か所での開催を目標とした。ファイナルは来年、2020年4月26日(日)のウェスタ川越大ホール。1000人以上の集客を目指して、サポートメンバーが毎月会議を行っている。題して40周年コンサート実行委員会「しあわせの種フレンズ」だ。
実行委員会というと、一般的には集客方法の確認や事務連絡などが行われる場のようだが、実際には、誰でも飛び込みで参加でき、お互いの近況報告や、気持ちをシェアする場所になっていた。
「みんな自分のこと、話したがってるんだよ。今の社会は当たり障りのないことしか話せない。誰もが思いのままを話せて、誰もその人のことを否定したりしない場所を作りたいんだよね。大人だってさ、そういう場所、欲しいじゃない」
べんさんの歌はかつて子どもだった大人たちの心にも、深く語りかけてくる。
「べんさんがほかの歌手と違うのは、現実のいろんな人に思いを託されて、それを形にすることができるところ。べんさんもこういう場で出会う人たちから思いを託してもらったり、力をもらったりしているんじゃないかな」
会議に参加していたひとりの女性のこの発言に、みんな大きく頷く。この会議によく参加している、中学3年生のしんちゃんも頷いていた。
しんちゃんは、今から7年前、「新☆川越おやこ劇場」で小学校2年生のときにべんさんと共演した男の子。べんさんが20人の子どもたちと、歌とお芝居の舞台を一緒に作り上げた仲間のひとりだ。しんちゃんのお母さんは当時をこう振り返る。
「ちょうどそのころは学校に行けなくなってしまっていた時期でした。後からわかったのですが、自閉症スペクトラムで感覚過敏があって、教室にいることもつらかったようです。私も子育てが暗礁に乗り上げたように感じていました」