ひばりの子であり、プロダクションの社長であり、ひばり伝説を継承していく立場は決して平坦な道ではない。
「それでもあいつは不良だから、奥歯噛みしめてやせ我慢してるんだと思う。美空ひばりを守るというのは、生半可なことじゃありません」
加藤と有香さんの間に子どもはいない。加藤は欲しがらなかったという。自分に子どもがいたら、「美空ひばりを守る」後継者にせざるをえない。それを彼はおそれたのではないだろうか。
さりげなく粋で、気遣いの人
2001年から始まった『マネーの虎』というテレビ番組に、加藤はレギュラー出演する。一般人が自分の夢や目標をプレゼンし、出資者から投資してもらうのだ。加藤は投資する側の「虎」のひとりだ。そこで彼は、世界一のパスタ料理店を開きたいと語った立花洋さん(62)に、980万円をポンと投資した。ほかの虎たちが採算がとれないと危惧していたのに、加藤は「おいしいパスタを食べてもらいたい」という彼の「まっすぐな人柄」だけで大金を出した。自分と似たものをもつ立花に入れ込んだのかもしれない。
立花さんはその後、湘南地域で4店舗を経営、一時は年商2億円までいった。
「社長(加藤)は、“僕を銀行だと思ってください”と言ってくれました。金は出すけど口は出さない、と。ただ、店名だけはピンとくるものにさせてほしい、と。たくさん考えたけど、どれも社長は首を傾げて。何度目かにうかがったとき、僕が出した『ラ・パットーラ』(パスタと居酒屋を意味するイタリア語・ベットーラを合わせた造語)に“それだ!”って。ほかのことにはまったく何も言わなかった」
開店するたび、大きな花が届いた。ときには「今日はたまたま近くまで行くので、ちょっと寄っていいですか」ということもあった。
「料理を食べると、最後にのし袋を差し出すんですよ。たまたま来たわけじゃない、ちゃんとお祝いを用意してくれている。しかも、お店の子たちにジュースを買ってあげてと別にくださる。本当に社長は気遣いの人、しかもさりげなく粋なんです」
ところが2年前、立花さんは後継者と決めていた人物に裏切られ、金を横領されて逃げられた。失意の中、すべての店舗を閉鎖したという。
「この先、どうしようか。もう働く気も起こらなかった。缶コーヒーを飲みながら毎日、ぼんやり海を見ていました。そんなとき、加藤社長が昔、騙されたり裏切られたりしたと聞いたことを思い出したんです。詳細は言いませんでしたけど、商売をしているとそういうこともあるよ、と。僕とはスケールが違いますからね、大勢の人が寄ってきたり離れていったりしたでしょう。社長はよく乗り切ったなあ。それだったら、僕ももう少し別の道でがんばってみるかと思えるようになったんです」