Aさんの場合、ひとり暮らしとはいえ、家族がいたので世話をしてもらえたが、家族のいないひとり身の人はどうなるのか。行政が駆けつけ、家族の代わりになり、いいように手配してくれるのだろうか。実例を聞けば聞くほど、「長生きはしたくない」という気持ちでいっぱいになる。しかし、どこまで生きるかは神の領域だ。

 いくら本人が在宅ひとり死を望んでも、ある時点で、ある年齢で、在宅死をあきらめざるをえないのかもしれない。その見極めが自分にできるか。いくら、ひとりで生きてきたと自負していても、最後の最後は、誰かの助けを借りないとならないのは理解しているつもりだが、実際にどうしたらいいか、今のところはわかりません。

介護疲れから『レスパイト入院』を利用したら

 ここでもうひとつ伝えておきたいことがある。Aさんの場合なのだが、今年に入り、介護に疲れてヘロヘロになった家族がケアマネージャーに相談すると、介護家族が休息できるよう、本人を2週間預かる『レスパイト入院』があると知らされ、飛びついた。

「レスパイト」とは「一時休止」「休息」という意味の英語で、介護疲れをはじめ、冠婚葬祭や旅行などの事情によって在宅介護が困難なとき、一時的に病院が入院の受け入れを行い、介護者がリフレッシュできるようにする仕組みだ。レスパイト入院と名前はしゃれているが、施設へのショートステイと違い、医師が必要と判断すれば、医療行為が行われる。

 入院した病院のドクターと話をすると「薬は心臓に悪いのでやめましょう。点滴も苦しいので」と、特に治療はしないということだったので、「よろしくお願いします」とホッとして帰った。しかし翌日、義母を訪ねると、酸素吸入器がつけられていたそうだ。事前にAさん家族に相談がなかったのでドクターに詰め寄ったところ、「はずすなら、ここに置いておくわけにはいかない」と、にべもなく断られたということだ。

 延命治療をしない自然死を望み、『日本尊厳死協会』にも入っている義母だったので、「延命治療はしますか?」と聞かれれば「しません」と答えただろうが……。家族もレスパイト入院は医療行為をされるのが前提だということを知らなかった。利用するなら、あらかじめ治療についてよく確かめてからのほうがいいだろう。

 最近は、長生き時代のニーズに合わせて、慢性期の疾患を扱う「療養病床」で在宅ケアできないお年寄りを受け入れる病院が増えていると聞く。

 医者は悪くない。医者は命を生かすのが仕事だからだ。レスパイト入院の知識がなかったAさん家族にも落ち度はあった。義母は、酸素吸入器をつけられなくても死期が近づいていたようで、数週間後に静かに天国に旅立ったということだ。


<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『老後ひとりぼっち』『長生き地獄』『孤独こそ最高の老後』(以上、SBクリエイティブ)、『母の老い方観察記録』(海竜社)など。最新刊は『老後はひとりがいちばん』(海竜社)。