フリーへの恐怖から我が身を滅ぼすことに
「私はデビューしてから7年ほど会社員との兼業期間があったんです。33歳で専業作家になったのですが、勤め人生活が長かったものでフリーになるのがものすごく怖かったんですね。
だから、独立したときにパーティーを開いてお付き合いのある編集者さんたちを招き、タイトルとあらすじを書いたレジュメを作って営業したりしていたんです」
その当時、恩田さんは依頼された仕事をすべて受けていたそうだ。
「そうした生活を数年間、続けたところパンクしてしまい、身体の全部の毛が抜ける全身脱毛症になってしまったんです。検査を受けても特に異常は見つからなかったので、原因はおそらく精神的なものだったのだと思います」
それでも恩田さんは、心身を削る思いで小説を書き続けている。
「ほかの方の作品を読んで打ちのめされたり、映画やコンサートを見て感動すると、“私もがんばろう”、“この感動をなんとかして言語化したい”という衝動が起こるんです」
そう話す恩田さんは、週女読者に提案したいことがあるという。
「『祝祭と予感』を読んだ方にはぜひ『蜜蜂と遠雷』の映画を見てもらいたいですし、できればお好きなジャンルのコンサートにも足を運んでいただきたいですね。創作に限らず、何かに触れることって大事なことだと思うんです」
ライターは見た! 著者の素顔
日々、執筆に励んでいるという恩田さん。健康維持と気分転換を兼ねて2年前から朗読を始めたのだそう。
「自宅でひとりで、シェークスピアや清水邦夫、トム・ストッパードなどの戯曲を声に出して読んでいます。時間はせいぜい15分ほどなのですが、声を出すと気分がスッキリするんです。室伏広治さんの本をヒントにしゃがんで腹式呼吸で行っているので、筋トレ効果もあるような気がします」。
ちなみに、今、朗読しているのは唐十郎の戯曲なのだとか。
(取材・文/熊谷あづさ)
おんだ・りく 1964年、宮城県生まれ。1992年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞、2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞、2017年『蜜蜂と遠雷』で直木三十五賞、本屋大賞など受賞多数。