当時、所属事務所は企業からの依頼で(ステルスではない)広告を業務として引き受けていたこともあり、事務所側はたとえ長年の知人であっても(金額は安くとも)広告業務として受託するほうが望ましいと小森さんに伝え、本件も事務所側が対応していた。しかし、担当マネジャーを含め事務所側は、虚偽の落札報告が広告に相当するという意識がないまま投稿を進めてしまい、後に数年を経てステルスマーケティングとして指摘されてしまったのだ。
多くのCM契約を小森さんが持っていたこともあり、億単位の補償金が発生。福田氏が経営していた所属事務所は対応に追われた。
「もとよりステルスマーケティングを行う意思はなかったが、事務所側の認識の甘さによって、タレントが築いた価値と信頼を失わせてしまった」
そう福田氏は当時のことをふり返る。この事件を経験したことで、ステルスマーケティングを撲滅することこそが、インフルエンス事業を活性化させるために必要な前提条件だと確信したという。
「ステルスマーケティングは消費者も傷つけるが、原資を提供するクライアントも、インフルエンサーやタレントも傷つけ、長年築いてきた信用と価値を地に落としてしまう」
LIDDELLを起業した福田氏は、起業後初の広告予算を「Stealth marketing kills」と書かれたTシャツの制作とインフルエンサーへの配付に使った。当時話題になっていたスモーカー批判TシャツのブランドFR2の「Smorkng kills」のアレンジ版を、FR2に持ちかけて実現したものだった。
なぜステマはなくならないのか?
ステルスマーケティングが業界全体にとって不利益なことは、関係者ならば誰もが知っていることだ。口コミマーケティングを自主規制する業界団体もある。
それでもなぜステルスマーケティングがなくならないのか――。その背景にあるのは、投資に見合うPR成果を求めるクライアント側の無言のプレッシャーだろう。「広告施策であることが明らかならばPR表記は不要」という欺瞞(ぎまん)がまかり通ってしまうのも、ダメだとはわかっていながらも、少しでも広告のにおいを消したい空気が「商流を隠しているわけでもないし、大丈夫だ」という甘えた予定調和をもたらす。
そして、そうした“甘えた予定調和”を助長させているのが、口コミ発信者を代理店やメーカーなどと結びつけるキャスティング業者の一部だ。「コトを曖昧にする」意識を持ってキャスティングを行っている事実は否めない。
キャスティング業者は、インフルエンサーなどSNSなどを通じた発信者と企業の間をつなぐことを業務としている。接続はするが、発信そのものには直接関わらないというのが、一般的な「建て付け」である。
『アナと雪の女王2』における事例でも、漫画家を起用したマーケティング施策のキャスティング業者である「wwwaap(ワープ)」は、代理店と漫画家の間を「仲介」していたにすぎない。
同社は口コミ投稿だけでなく、企業が漫画を用いたプロモーションや啓蒙コンテンツを作りたいときなど、さまざまな形でキャスティングを行っている。しかし代理店とのコンタクトに関して仲介は行うものの、発信そのものは漫画家自身が責任を持って行うことになる。