配偶者だから必ず助けてくれるとは限らない

 公正証書遺言の手続が終わったあと、志保さんからの連絡は途絶えてしまったので、筆者は息子さんの行方を最後まで見届けることはできませんでした。しかし死後、筆者のもとを訪ねてくれた母親の話から察するに、裁判所が志保さんの遺志を酌み取り、息子さんの後見人を夫ではなく志保さんの母親に選定してくれたようです。志保さんが生前にやり遂げた手続きは死後、きちんと息子さんを守ってくれたのです。

 近年、社会全体でがん患者を支援しようという機運が年々、高まっています。例えば、厚生労働省が「疾患を抱える従業員(がん患者など)の就業継続」を目的として策定した事業主の取り組みに対する支援策など。このような試みは頼もしいですが、患者に最も近く、いちばん力になるべき存在は誰でしょうか? 結婚している場合は配偶者でしょう。とはいえ夫婦というのは血がつながっていません。戸籍上は身内でも、血縁上は他人です。そのため、「夫だから」「妻だから」必ず助けてくれるとは限りません。

 志保さんの夫のように、妻の病気が悪化するような嫌がらせを繰り返す配偶者が世の中に一定数、存在することは頭の片隅に置いておいたほうがいいでしょう。

 当然のように協力してくれると信じていた相手に裏切られるとショックは大きいですし、相手が配偶者だとなおさらです。もし自分が病気にかかったら、配偶者の協力をあてにして病気の治療を始めてもいいのかどうか、慎重に検討したほうが賢明と言えます。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/