M-1優勝は夢、夢、夢
ファイナルステージは、最初にぺこぱ、二番目にかまいたち、三番目にミルクボーイという順番でステージに立つことになった。
ぺこぱはお年寄りに親切にしたいというネタで、ポジティブ転換ツッコミをまた繰り出す。「間違いを認められる人間になろう」などと、道徳の教科書のようなことを言いながら笑いをとっていく。
かまいたちは、山内が「トトロを見たことない自分は凄い」と強引な価値観を言い出すネタ。言葉のトーン、間、リズムを自在に操って、15年のコンビ歴の腕を見せつける。観客に質問し、手をあげさせるというM-1では珍しいシーンもあった。
ミルクボーイは、大ウケしたファーストステージと同じ構造で、今度は最中を何度も連呼しながら、どんどん笑いをかっさらう。最中を揶揄(やゆ)しながら、「俺たちよりも最中の方がテレビ出てる」と自虐も笑いに変えていく。
三組ともそれぞれの個性溢れる漫才を披露し、全力を出し切った。
結果、オール巨人、ナイツ・塙、立川志らく、サンドウィッチマン・富澤、中川家・礼二、上沼恵美子がミルクボーイに票を投じ、松本人志だけがかまいたちに投票した。
「優勝はミルクボーイ!」
ロケット砲がさく裂し、紙吹雪が舞う。金のトロフィーを握りしめる相方の横で、ミルクボーイ内海が言った。
「今年テレビで初めて漫才して、ミルクボーイ、ミルクボーイ、ミルクボーイ……ボカンって……。嘘です、こんなもん。夢、夢、夢」
たとえ無名でも面白い漫才をすれば、王者になれる。それがM-1ドリーム。
一夜にして人生が変わる
ミルクボーイは、大阪芸術大学落語研究会で出会った駒場孝と内海崇が2007年に結成したコンビ。駒場は大阪のボディビルコンテストで優勝したことがあるほどのマッチョ体形で、内海はぽっちゃり体形に角刈りがトレードマークだ。
「テレビの地上波で漫才をするのは今年初めて」で、所属は吉本興業大阪本部だが、大阪の劇場支配人すら最近までその存在を知らなかったという無名の存在だった。
結成当初から、現在の原型のような漫才をして少し注目されたものの、その後は鳴かず飛ばず。2010年の第10回大会の後、『M-1グランプリ』が開
ところが、2015年にM-1が復活し、出場するようになってからまた漫才への情熱がよみがえってきた。2017年には、それまでおしゃれな髪型をしていた内海がいきなり角刈りにカット。見てくれなど振り捨てて漫才に性根を入れる決意をしたという。
さらに昨年、平成生まれの霜降り明星がM-1最年少優勝をはたしたことで、本気がもう一段加速した。アルバイトをしながらの生活だったが、それ以外の時間は趣味も呑みの誘いもすべて絶って、ストイックにネタづくりと稽古に没頭。劇場出番すらあまりなかったため、「漫才ブーム」というライブを自ら開催し、腕を磨いてきたのだった。
今年のM-1では、予選から「コーンフレーク」のネタを披露し大躍進。生で見た人の中では評判となっており、第1回M-1ファイナリストであり、ラジオの裏実況を担当したユウキロックは「優勝候補」とまで推していたぐらいだった。
決勝では期待以上の漫才を披露し、大本命のかまいたちやダークホースのぺこぱを退け、優勝となった。
評価のポイントはいろいろあるだろうが、当日の爆発っぷりは文句なしのいちばんだった。また、“リターン漫才”と称される2人のリズミカルなやりとり、一見ベタな上方漫才に見えて、新しい切り口で「コーンフレーク」を揶揄するワードセンス。観客を引き込むテクニック。見事にミルクボーイならではの「笑いのツボ」を発見し、優勝を勝ち取った。
ミルクボーイ優勝の報が流れた直後、50件以上の仕事依頼が殺到したという。M-1優勝ネタ以外にも、いろいろなパターンのネタがあるということなので、これからどんどん披露してくれることだろう。
「ニュースター誕生!」というにはあまりにもいぶし銀なルックスと芸風だが、一夜にして認知度と評価があがり、“食っていける芸人”になったのは間違いない。