Mattも優一も、なぜ父とは違う世界に進んだのだろうか。いや、このふたりだけではない。桑田と同じ巨人で4番打者を務めた落合博満のひとり息子・落合福嗣も「声優界」という違う世界で活躍している。
「オレ流」二世の落合福嗣
一昨年から昨年にかけては、テレビアニメ『HUGっと!プリキュア』(テレビ朝日系)やアニメ映画『空の青さを知る人よ』などに出演。子供のころは両親とともに出たテレビでやんちゃぶりが注目されたが、最近はこんな発言をしている。
《あと個人的に、植物を育てている女の子って素敵だなと感じますね。僕もガーデニングが趣味なんですけど、ガーデニングって毎日ちょっとずつ手入れをしないといけないから大変なんですよ》(『アニメイトタイムズ』より)
なお、これは大ファンという百合系マンガ『あさがおと加瀬さん。』(新書館)についてのインタビューでのもの。アニメ映画になったときは、出演もした。彼の父は「オレ流」を貫くことで有名だったが、息子もある意味、オレ流の人生だ。
そして、Mattの父もかなり独特な人である。「KKコンビ」としてともに甲子園を湧かせた清原和博によれば、高校時代、野球部員は学校で寝ているのが当たり前だったのに、休み時間にまでひとりで勉強していたという。
プロ野球選手になってからは、バブル期に投資で失敗して「投げる不動産屋」と揶揄(やゆ)されたり、登板日漏洩疑惑で出場停止処分を食らったりした。その処分明けの試合から2試合連続で相手を完封してみせたこともある。こうしたメンタルの強さは、Mattにも受け継がれているのだろう。
受け継がれているといえば、彼がピアノに出会ったいきさつを『うたコン』(NHK)でこう語っていた。
「父がヒジをケガして、リハビリでピアノをやってたんですよね。そのころ僕は、小学校1年生くらいのときで、それをきっかけにピアノを始めて、独学でここまでやってきて」
当時、桑田投手がピアノを始めたことは異色のリハビリとして話題になった。変わり者と呼びたいほど独創的で、メンタルの強い父を見て育ったことは、彼に大きな影響をもたらしたはず。だからこそ、親と同じ道を選ばず、ありきたりでない生き方を堂々と突き進んでいるのではないか。
オリジナルな生き方を貫くという意味で、この3人の父は似たタイプに思える。それが息子たちの個性的な生き方につながっているのだろう。
今は子供が親と違う道を選んでも、何の問題もない時代。今後もアスリート二世のなかには、あえて文化系を目指すような人が出て来るに違いない。ただ、さすがにMattを超えるほどの存在はなかなか現れないだろう──。
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。