また彼女は、北東アフリカのスーダンでもこんな発見をしている。
「スーダンはエジプトの隣国で、すごく乾燥している地域。年間降水量100~300ミリくらい。だから、主食はソルガム(イネ科の穀物)というすごく旱魃(かんばつ)に強い作物で、クレープ生地や粥(かゆ)状にして主食として食べられてきた。けれども、最近は代わりにパンがたくさん食べられるようになっていました。市場にたくさんパンが売っていて、ソルガムがあっても、パンを食べる。私たちでいえば、白いごはんがあるのに一緒にクロワッサンを食べているみたいな感じなんですよ」
虫を食べることで季節を味わう
現地の台所をよく観察し、「あれ? なんでこれ食べているんだろう?」と疑問が湧くと、さまざまな文献や論文、ネット上の情報などを納得するまで調べていくのだという。
「なぜスーダンでパンが食べられるのか? それは、戦争が終わり平和な時代が来たために、アメリカの余剰農作物だった小麦をスーダンが買うことになってしまったから。開発援助という形でアメリカが小麦をスーダンに長期ローンで供給するようになったんですね。小麦輸入によって始まったパン食文化が浸透した結果、小麦の輸入に依存し続けたため返済できないローンが募り、経済的な困窮という結果を招いた。そんなことも食卓から見えてくる」
また、ちょっと気後れしてしまうような食文化にも、理由があると岡根谷さんは言う。
南部アフリカの内陸に位置するボツワナでは、虫を食べる習慣に触れた。
「虫を食べると言うと“長野の人も食べるよね”“タンパク質がないからでしょ?”などと言われる。でも、そうじゃない。ボツワナは人間よりも牛の数のほうが多くて、虫を食べる必要なんてまったくない。彼らは虫を食べることで季節を味わっているのです」
日本人が春になったらタラノメやワラビを食べたくなるように、虫という食材を楽しむのだと言う。
「もうひとつは、現金収入になるからなんですね。つまり魚と一緒で、自分が手をかけなくても自然界からそのままとってきて現金になる。山菜をとってきて売るのと同じことなんです」
1989年、岡根谷さんは長野県長野市で生まれた。家族は勤務医の父と専業主婦の母、そして祖母、3歳上の兄と2歳下の妹の6人家族。祖母も母親も料理上手だった。
「食卓は煮物ドーン、大皿にたっぷりの野菜をドーン。とにかく既製品に頼るのはよくないと思ってた人たちなので、丁寧に作るし、常備菜なども多かったんですよ」
品数は多く、かぼちゃの煮物、アスパラガスを茹でたものなど長野という土地の素材を生かした栄養たっぷりの料理が食卓にずらりと並んだ。
「おばあちゃんと母親があまり話し合わないで作るもんだから、同じものが重なったりして(笑)。エビフライもあれば天ぷらもあるという感じ。最近、素材とか出汁の本当のおいしさにホッとすると感じられるのは、祖母と母のおかげだと実感しています」