しぶとく生き延びようとする菌
そもそも薬剤耐性菌がどうして出現したかというと、「菌による感染症は、主に抗生物質を使用して治療を行います。しかし、使い続けていくうちに菌が賢くなって、薬剤耐性菌が発生します。抗生物質は菌を殺す薬ですが、菌のほうはあの手この手を使って生き延びようとするのです」(具芳明先生、以下同)
例えば、膜をつくって攻撃から逃れたり、入ってきた薬を自分の外に出したり、自分自身を変化させたり……抗生物質の攻撃をかわすための防御力をつけた菌が薬剤耐性菌なのだ。
「薬剤耐性菌の多くは、大腸菌など腸内細菌や皮膚の常在細菌などで、健康な人にもいる身近な菌がほとんどです。しかし、手術や抗がん剤治療などで体力が落ちている人や高齢者が薬剤耐性菌に感染すると、菌血症など重大な病気にかかることがあり、最悪は死に至ります」
健康な人にもリスクはある。
「薬剤耐性菌に感染すると、薬が効かず治療が難航します。例えば、大腸菌の薬剤耐性菌に感染すると、その菌が原因で膀胱炎にかかった場合、薬が効かず腎盂炎や菌血症を発症することがあります」
薬も効かず、長々と苦しむなんてイヤ! どうしたら、薬剤耐性の恐怖から逃れられる?
インフルエンザ、風邪には全く効かない
「私たちにできることは、抗生物質を正しく知ることです。かつては、普通の風邪でもインフルエンザでも、“念のため”と抗生物質が処方された時代がありました。そのせいか、何の病気にでも効く万能薬と思っている人が少なくありません。
抗生物質は菌を殺す薬で万能薬ではありません。インフルエンザや普通の風邪はウイルスが原因なので、まったく効きません」
必要もないのに抗生物質を飲むと、身体にいい働きをする腸内細菌が殺されて、残された薬剤耐性菌が増えてしまうのだ。
「10年前には風邪症状の6割以上に抗生物質が処方されていました。2017年ごろまでには3割まで減ったものの、患者に要求されると処方してしまう医師もいるので、患者が賢くなることが重要です」
では、抗生物質をまったく飲まなければいいのかというとそうではない。
「菌による感染症は抗生物質が有効です。風邪のような症状でも、ときには菌によることがあります。医師の指示に従い、きちんと処方された分を飲み切りましょう。途中でやめたり用法どおりに飲まないと逆に、薬剤耐性菌を生む結果になってしまいます」
1.抗生物質は医師の指示どおりに服用する。
2.必要がないのに医師に要求をしない。
3.人にあげたり、もらったりしない。
4.自己判断で飲まない。
以上のことが重要なのだ。