“働かざる者食うべからず”の押しつけ
「サポステは半年で就労を迫るんですよ。最長1年まで延長できますが、それでもたった1年。だからそこで失敗すればまたひきこもっちゃう。でも、国がひきこもりから外に出てきた当事者に用意しているのはそれだけなんです。それも今までは39歳までという限定つきです。
出たからといって外の世界はすごく恐怖に満ちてますし、長いこと歩いていないから足の筋力も落ちていて歩く練習も必要だし、目の焦点も合わせづらくなっている。それがいきなりサポステ行って就労訓練受けて、面接行けと言われたところで現実的に無理があります」
ひきこもり支援のゴールは国の意図するような就労ではないと黒川さんは言います。
「そもそも50代まで社会経験がない方たちにいきなり外に出て働けと言うのは、人権を踏みにじるに近い行為だと思います。
こちら側の価値観を押しつけて、その方が本当はどういう人生を生きたいのかとか、本来だったらどういう自分でありたかったのかとか、ご本人の思いの側に立つのではなく、こっちの社会側の価値観と尺度で“働かざる者食うべからず”みたいなのを押しつけてというのは支援ではないと思います。
多様性のない社会の側に彼らを適応させるのではなく、社会のほうが変わる努力が必要なのだと思っています」
ライターは見た!著者の素顔
黒川さんがくり返し訴えていたのは、ひきこもりの長期化を防止する重要性。早期発見の手立てはあるのでしょうか。
「不登校だったら、まだ学校とつながっていますから、その時点で手を打つ。防止は10代から。高校中退させないとかね。横浜でやってるユースプラザって言うのがそういう受け皿なんです。15歳からの若者でひきこもりだったり、不登校な子たちの居場所。そこで相談を受けたスタッフが次に繋げます。ずっとそこにいるわけにはいかないですからね」
(取材・文/ガンガーラ田津美)
くろかわ・しょうこ 福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。著書に『誕生日を知らない女の子 虐待ーその後の子どもたち』(第11回開高健ノンフィクション賞)、『「心の除染」という虚構』『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』ほか多数。