親子間の潤滑油に
安田さんによれば、受験がきっかけとなって、その後の人生を前向きに生きられるようになることは多いそうだ。
「生徒は、いじめなど自分の努力ではどうにもならないことで追い詰められてしまった人ばかり。でも、勉強は努力どおりの結果が出る。努力が報われるということが、自信につながるんです」
自信を取り戻させるには、親が干渉しすぎないことも大事だという。
「実は、無関心よりも過干渉の親のほうが圧倒的に多いんです。親は“子どもがひきこもっているのに、私が旅行に行って楽しむわけにはいかない”などと言うのですが、その考えが子どもを追い詰める。適度に距離を置き、親が深刻になりすぎないことが大切です。
また、“この塾に行きなさい”ではなく、“もう少し家にいるのもいいし、塾に行ってみるのもいいね”と、子どもに選択権を与えることも重要です」
入塾後、親子の間でキズキが“潤滑油”の役割を果たすこともあるそうだ。
「親子だと、“これぐらい理解してくれるはず”と、相手への期待が入ってしまい、それがコミュニケーションの障害になることがある。そこで親からメールで連絡をもらい、その内容を講師から伝えると生徒もすんなり受け入れてくれたりするんです」
入塾を機に立ち直った生徒や保護者からは、感謝の言葉をかけられることも多い。
「スタッフの中には、“親御さんに感謝されてうれしい”“生徒の笑顔が見られるのがやりがい”という人もいます。もちろん悪いことではないのですが、“自分が生徒を笑顔にしたこと”にやりがいを感じるのなら、それはエゴなのかもしれません。生徒にとっては、立ち直れるならほかの塾でもいいわけですから。だから、たとえキズキを途中でやめたとしても、最終的に生徒が幸せになれるのであれば、それでいいと思うんです」
いちばんうれしいのは、「生徒がキズキを忘れていってくれること」だと安田さんは言う。
「卒業した生徒が新たな環境でいきいきと生活しているのをSNSなどで知ると本当にうれしいですね。彼らにとってここは、人生の一通過点。今の生活が充実していれば、この塾のことは自然と忘れていくでしょうから、そうあってほしいと願っています」