容疑者の夫に話を聞く
9階の階段付近から真下の公園に転落した柚希ちゃんは、風にあおられたのか、建物から約4メートル離れた地点に落下したとみられる。成人の両手のこぶしほどの赤黒い血痕が残り、そばの献花台にはヤクルトやビスコ、アンパンマンのお菓子などがお供えされていた。府警によると、20日の司法解剖で死因は脳挫滅と判明した。
なぜ、こんな事件を起こしてしまったのか。近所の住民が「社交的で明るい人」と評する柚希ちゃんの父親を自宅に訪ねると、インターホン越しに淡々とこう答えた。
「まだ心の整理がついてなくて、人にお話しできる状態ではないんです」
─奥さんが子育てに悩んでいる様子はありましたか?
「報道されているとおりです」
─悩んでいたということですか?
「……。ただ、このくらいの子を持つ親はみなさん、大なり小なりそういう悩みや苦しみを抱えていると思うんです。そうしたほかのご家庭と比べてうちはどうだったかというと、まだ冷静に考えられず、お話しできる状態ではありません」
終始、低いトーンでいっさい抑揚がなく、インターホンの向こうの憔悴した様子がうかがえた。
帰ろうとしたそのとき、自宅玄関の小窓から、幼い女児とみられるつぶらな両目がこちらを覗いていた。小学校低学年ぐらいだろうか。まだ事件が理解できる年齢ではなく、訪問者に興味を持ったようだった。バイバイと手を振ると、はにかんだように少しだけ目じりを下げた。
その目の奥は、日曜日から帰ってこない妹をお姉ちゃんとして心配しているようでもあり、お母さんを待っているようでもあった。