“ダンスがいちばん”を崩壊させた舞台
村上春樹の難解な世界観は、どういうふうに表現されるのだろう?
「この小説はすごく幻想的で、現実なのか夢なのかわからなくなるような作品なんですよね。だからこそ、インバルの独創性が生きると思います。どこか心地よさも誘う幻想的な世界を、歌とコンテンポラリー・ダンスという抽象的な踊りで、より効果的に描けると思う。見てくださる方のイマジネーションを刺激する作品になると思います」
もともと、最強のダンサーだった大貫が俳優としての自我に目覚めたのは、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で死のダンサーを演じたときだった。
「それまでの僕はダンスがいちばんと思っていたし、ダンスしか知らなかった。初めて歌とお芝居で表現するミュージカルに触れて感動して“自分もこういう表現ができる人になりたい”と思ったときに、扉がパーンと開いて世界が広がったんです。
それからお芝居をやるたびに、どんどん打ちのめされました。それまでダンスでは、苦労したことがほとんどなかったのに」
さらに初のストレートプレー『アドルフに告ぐ』で出会った成河らに触発され、俳優への憧れを強めた。
「そのころ人生で初めて、ダンスを8か月くらいやめたんです。“お芝居だけやる!”と決めて、トレーニングを一切やめた。その後、ダンサーの身体に戻すのに3か月くらいかかりました。けっこう苦労しましたね。
それで“俳優ができるダンスもあるけど、ダンサーにしかできないお芝居があるんだ”と改めて気づいたんです。“僕のよさ、強みはダンサーでありながらお芝居をすること”なんだって」