現在、全国に100万人いると推測されるひきこもり。近年、中高年層が増加しており、内閣府は昨年初めて、40歳以上が対象の調査結果を公表した。一般的には負のイメージがあるひきこもり。その素顔が知りたくて、当事者とゆっくり話してみたら……。
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ワケあり女子さん(32)のケース

 32歳にしてバツイチ、不登校、うつ、ひきこもりなど、世間でマイナスだと思われることをこれでもかというくらい経験してきたワケあり女子さん。波乱に満ちた過去を振り返って、彼女自身、「よく頑張った。よく生き残ってきたと自分に言ってあげたい」と、しみじみ話す。

 彼女と出会ったのは、『不登校新聞』の編集会議だった。私は見学させてもらったのだが、彼女の「学校や教師への不信感」「もっと自分を解放していい」という内容を語るときの凜(りん)とした口調が印象に残った。この人は相当な苦悩を抱えてきたに違いないと感じたのだ。

 ワケあり女子さんは現在、教育関連の仕事に就いたばかり。これからきっと彼女の経験が生きるに違いない。

「ようやく人生が落ち着いた気がする」

 そう言って笑う彼女の目が輝く。誰から見ても「美人」。だが、今まではそれも生きづらさにつながっていた。

存在を消そうと決めた小学生時代

 福井県福井市で生まれた彼女は、小学校のときから勉強が好きだった。父は勉強ができることを喜び、自由にさせてくれたが、親戚や祖母からは「女の子は勉強なんてしなくてもいい」と言われたこともある。地方にはありがちなことかもしれない。

 彼女が子どものころ、父は起業に成功したが、あまり家に帰ってこなくなった。母はひとりで仕事と育児のストレスを抱え、イライラは娘への八つ当たりになった。一方で娘を自分の生きがいにしようともしていた。

 利発でかわいくて勉強ができる彼女は、学校では自他ともに認める人気者で、「キラキラしていた」そうだ。

 両親はその後、仲直りの妥協点を探ったのか、田舎に家を買う案が持ち上がった。ワケあり女子さんは「引っ越したい」と真っ先に言った。

「私が引っ越したいと言えば、両親の仲がよくなるんじゃないかと。子ども心に空気を読んだんですよね」

 8歳のけなげな決断だった。一家3人は、福井の最北端の町に引っ越した。転校初日、教室に入って挨拶した瞬間、「よそ者が来たぞ」という空気を感じた。

「私、本名がキラキラ系なので、下手なことを言うといじめられると感じ、存在を消そうと決めたんです。おとなしくて頭のいい優等生で通したからいじめられなかったけど、友達はできなかった」

 小学校時代の写真は、すべてつらそうな表情で写っているという。