重くのしかかる「自己責任」の呪い
本間さんはこれまでに2度、雇い止めに遭っている。そのたびに、同じ仕事に応募し直さなければならなかった。
「6~7人がいっぺんにクビを切られたこともあります」
2年前、末期がんの家族がいる同僚が理不尽な理由から雇い止めに遭ったときは、怒りが抑えられず抗議した。
「2時までに出す郵便物を、2時40分に出したからクビだと言うんです。周囲の信頼が厚い人だったのに、本人のキャリアも、相談者への支援も遮断されてしまいました」
非正規の立場でありながら、本間さんは声をあげることをやめない。自己責任論に飲み込まれていた昔の自分からは考えられないと話す。
「中学生のころ、思春期性の神経症になり、勉強に集中できなくなったんです。それが負い目となり、成績も下がって大学進学を断念しました」
負い目の気持ちを払拭(ふっしょく)してくれたのは仕事だった。専門学校を卒業後、テレビ番組の制作の職に就く。やりがいはあった。しかし肩書こそ正社員だが、実態は非正規同様の「名ばかり正社員」だった。
「ディレクター職で、正社員なのに残業代なし、社会保険もなし。深夜まで働いて手取り10万から12万円ほどでした。栄養失調になり、生理が止まったこともありました」
そんな働き方を強いられても、育児をワンオペでこなしても、「仕事を選んだのも、産んで大変なのも、全部自分のせい」と思っていた。
呪いが解け始めたのは、38歳のとき、パート先でパワハラに遭ってからだ。子どもがよく熱を出し休みが多かった本間さんは、ある日、上司から異動を言い渡された。業務内容は、紙を1から1000まで数えて、そろえるだけ。
「さすがにおかしいと思って。私が悪いからこんな目に遭うのかなとか、働き方にいろんな疑問が湧いてきた。そこで産業カウンセラーなどの勉強をして資格も取りました」
さまざまな背景を持つ氷河期世代。上の年代では、親の介護問題も浮上している。
「氷河期ネットが厚労省へ提出した要望には、在宅介護者への給付金の提言を盛り込んでいます。国は当事者の声を取り入れた政策を立ててほしい。不安定な身分や格差に悩む、こんな社会を子どもたちに残したくないですから」