妻は今の生活を重視し、無条件で夫を許した
このことから理恵さんは夫が不倫相手と駆け落ち──家を出ていき、不倫相手と一緒に暮らし、理恵さんに生活費を入れないという事態には至らないと判断したようです。実際のところ、住宅ローンが月30万円という都内の高級住宅街に住むことができるのも、学費が月20万円のインターナショナルスクールに長男を通わせることができるのも、夫の存在があってこそです。
夫の遊びを許さず、不倫をきっかけに離婚し、今の生活を手放すわけにはいきません。夫の女遊びは金銭面を保証してもらうための“必要悪”だと割り切ることにし、途中まで言いかかった離婚の「り」の字を飲み込んだのです。
不倫を容認する条件として違約金(再度不倫をしたら〇〇〇万円支払う、など)付きの誓約書にサインさせたり、帰宅したらスマホのロックを解除したり、小遣い制(妻が家計を管理し、妻が夫へ小遣いを渡す)に変更したりせず、理恵さんがほぼ無条件ですませたのは、それよりも今の生活のほうが大事だからです。このような条件をつけたら、夫婦関係が悪化し、夫は息苦しさを覚え、家を飛び出してしまうかもしれません。これでは本末転倒です。
妻が離婚を決断するのは「不信感」が積み重なった場合
ここまで理恵さんの苦しい胸の内を紹介してきました。
不倫でできた溝を完全に埋めて、夫婦の関係を原状回復するのは難しく、特に妊娠中の場合は、離婚に至るケースが圧倒的多数です。「子どもが小さい」「両親に反対された」「経済的に不安」「気持ちの整理がつかない」など別の理由で思いとどまるケースも存在しますが、全体の10%以下という印象です。
夫の不倫に対して妻は嫌悪感を抱きますが、嫌悪感だけで離婚を決断するわけではありません。なぜなら、何年、あるいは何十年もかけて築いた信頼関係は、嫌悪感だけでご破算になるほど柔(やわ)ではないからです。それでも妻が離婚を決断するのは「不信感」が積み重なった場合です。
例えば、夫が「相談に乗ってもらっていただけ」「仕事上の付き合いだけ」「1対1で会ったことはない」「一線を越えていない」「もう連絡をとらない」などの言い訳をしたとします。しかし、実際に夫が仕事以外の用件で女性と会っているのなら、単なる相談相手ではありません。しかも、女性の家やホテル、車内などで2人きりで過ごしていたら、夫が並べ立てた言い訳は真っ赤なウソだったとわかります。
夫婦の間に起こる問題は不倫だけではありません。問題が起こるたびに妻は夫に対して「ウソをついているのでは」「隠し事があるのでは」「約束を守ってくれるだろうか」などと疑わざるをえませんが、これでは夫婦関係を修復するどころか、亀裂は広がるばかりで、どんどん悪化していきます。
つまり、不倫はあくまで「きっかけ」にすぎず、離婚が決定的になる原因は「ウソ」です。バレるようなウソをつくか、下手なウソをつくくらいなら白状するか……それが離婚するか否かの境目になることもあるのです。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/